寮生の傾向





寮生は、決してランダムに割り振られているわけではなく、
一定の基準に従って振り分けられている。
これは、かつて導師たちの派閥争いが激しかった時代に、各派閥が、
将来研究生として指名できる学生を階ごとに分断していた名残である。
現代でも、ごく一部の導師にその傾向が受け継がれている。
具体的には、4階の責任者の導師と、3階の責任者の導師が、
良家の子女を取り合ったりしている。
(そして、導師同士の力などの関係で、大抵4階が勝つ。)

なお、現在では、導師はどの階からでも自分の研究室の研究生を指名できるため、
導師にとっては、学生がどの階に振り分けられるかにそれほど大きな実質的意味はない。
(にもかかわらず未だに細かい階の振り分けこだわっている連中は、
大抵意地を張り合っているだけである。おそらくは、師匠の代からの。)

寮生は、まず、5階に割り振られるか否かが判断され、
次に4階+3階か2階+1階が性別で振り分けられ、
最後に個性に応じて残り2つのうちどちらに振り分けられるか決定される。
(最終段階で一番大きく影響するのは、親の地位及び収入である。)
言うなれば、5階・4階・2階は選抜クラス、3階・1階は要注意クラスである。
ただし、その分け方に従えば、貴族以外の男子特待生は1階に入ることが多い。
つまり、選抜とはいっても、成績を度外視した選抜であるといえる。

また、入学期には「その3人はそっちでいいですから、この子はうちの階に下さいよ。」
とか「どうかうちの娘だけは3階に関わらせないで下さい。」といった取引も行われるため、
「4階にいそうなのに3階にいる学生」(あるいはその逆)といったケースもみられる。
なお、階をまたいだ部屋の交換は寮則により禁止されているが、
性別の問題をクリアしている限りにおいて、実際には黙認されている
(貴族や大商人の子弟でもないのに、部屋の交換を悪用して5階に住んでいる者も
ごくまれにいる。もちろん寮則違反だが。)。
とはいっても、互いの部屋の荷物を全部交換というのは手間がかかるうえ、
双方ともにメリットがあるケースは稀である点から、滅多に行われることはない。

各階の階訓は、階ごとの対抗意識が今よりもっと激しかった頃の名残で、
現在は各階の多数決等により毎年変更されている。
実体は拘束力の無い標語にすぎないが、自分の階の手軽な旗印となるため、
案外真面目に考えられているようである。
多数決という性質上、階の最大勢力(といっても、今年は1階以外は
階ごとにほぼ単一勢力としてまとまっているが)の意向が濃く反映されるため、
その年の各階の性質を端的に表したものになることが多い。

※女子の部屋と男子の部屋を出来る限り離し、やんごとなき方々は最上階へ、
 というのが基本原則。とすると、5対4+3対2+1という構図ができる。
 4+3と2+1は、その内部で優先順位が高い方を上に持ってくる。
 なお、寮の建物内部で講義があるわけでもないし、ましてやエレベーターもないので、
 一般の学生は位置的には利便性の高い低い階を好む傾向にある
 (もちろん、貴族は例外)。一般的には低い階の方が防犯上の問題が多いが、
 寮には守衛もいるし、何より魔法使いは恐れられているので、
 外部からの脅威はそれほど大きくない。



・各階寮生の傾向



貴人の5階(貴族・大商人の子弟が多い)

概要:

階訓は「より高みへ」

貴族・大商人の子弟の専用フロアだけに、大金持ちの生徒が多い。
また、男女が同階になる寮で唯一の階であることから、
部屋の防犯・防音には様々な注意が払われている。
もっとも、男子と同じ階になるのを嫌う女子もおり、
また、その訴えを無視できるような身分でもないことから、
「5階に住むべき人なのに、なぜか他の階にいる。」というケースもありうる
(実際は、5階の治安が一番いいのだが。)。
なお、一室一室が広く、居住可能人数は他の階の半分程度だが、
それでも部屋が余っている。そして、余った部屋は物置に使われていたりする。

5階の住人は、小さい頃から比較的不自由せずに育ち、
そして、彼らに注意できる学生もほとんどいないため、
世間から(そして一般の学生からすらも)ずれっぱなしな者が多くみられる。
意外にも、貴族と平民の間の軋轢はそれほどない
(もしあったら、平民はとっくの昔に2階に追いやられているだろう。
ちなみに、設立当初などは5階全体が貴族専用の階だったらしい。)。
これは、貴族といっても長男でない者が圧倒的多数で、
日常生活に差し支えるほどのプライドを持ち合わせていない者が多いことが
原因であると思われる。なお、5階の平民は同じ階の貴族に対してよりも、
同じ平民として2階の学生に一方的な親近感を抱いていることが多い。

階の最も手前に寮母の部屋があり、5階の雄の部屋はその1つ奥である。
寮母の部屋は前半分がオープンスペースで、奥半分が居室。
寮母はよくお菓子片手に本を読んでいるが、
実は5階専任の守衛も兼任しており、かなり強い。
5階の雄、ウィットは傀儡にすぎず、真の統率者はアリエルである。
アリエルと懇意にしている者の多い3階に対しては、一方的な苦手意識を持っている。

同盟関係:

1階は、特待生以外眼中にない。
2階に対しては、5階貴族は眼中に無く、5階平民は一方的な親近感。
3階に対しては、一方的な苦手意識を持っている。
4階とは同盟関係にある。(唯一の男女間同盟である)

対外関係:

強力な資金力やコネクションを背景とした圧力は、他の階などものともしない。
ただ、直接的な武力の話に限れば、学生数が少ないため、他を圧倒するのは難しい。



良心の4階(問題の少なそうな女子が多い)

概要:

階訓は「負けるな、女の子!」

(主に家柄面で)問題の少なそうな女子学生をここで保護しているため、
模範的な生徒が多い。もっとも、無菌室育ちが多いため、
来て早々にとある女生徒にたぶらかされる例がしばしばみられる。
お嬢様らしく、平均点だけなら男子の階に負けることはない。
反面、おとなしい子ばかりというイメージとは裏腹に、
お嬢様にしてはかなりアグレッシブな階訓を持っている。

なお、5階住人を除く男子の立ち入りが露見した場合、
3階に通報され、同盟関係に基づいて共同で処理される。
4階の雄、リコリスが、皆に支えられつつがんばっている。

同盟関係:

1階を嫌悪。2階を敵視。
3階とは同盟関係を結んでおり、個人的にも仲のいい学生が多い。
5階とは同盟関係を結んでいる。(唯一の男女間同盟である)

対外関係:

階単体での力は非常に弱く、5階や3階との同盟が頼りである。
ただ、その気になればどことでも同盟できる
(そして、おそらくどこにでも受け入れられる)身軽さが最大の武器であるともいえる。



女傑の3階(問題が多そうな女子が多い)

概要:

階訓は「猫」

(主に家柄面で)問題がありそうな女子学生をここに隔離しているため、
特徴的な生徒が多い。とはいっても、この国の中流以下の家庭には、
娘を賢者や魔法使いにしようといった発想がそもそも珍しいため、
(男子の階と違い)女子の特待生が4階でなくこの階に集中しているというわけでもない
(3階に振り分けられやすい、中流以下の家庭からの女子特待生自体が少ないためである。)。

階訓については……どうやら、猫好きが多いらしい。
3階の雄、ローディスが、自身の人望と、階内の全派閥との良好な関係をもって、
個性派の多い階を束ねている。

同盟関係:

1階と2階に対して、3階廊下の入り口付近に絶対防衛ラインを敷いている。
「このラインを3階の雄又は責任者である導師が認める正当な理由なく超えた男子は、
あらゆる魔法の練習台とされることに一切の異議なく全面的に同意したものとみなす。」
との通告を、1階と2階の雄に対して行っている。
1階と2階の雄はこの通告をうけて正式に抗議の声明を発表しているが、
個人的には踏み越える方が悪いと思っているので、それ以上の行動には移していない。
なお、4階廊下入り口付近の絶対防衛ラインについても同様である。
女子である場合、又は、3階住人に招き入れられた等の正当な理由がある場合、
又は、各階の雄の地位を持つ場合(代理権濫用のおそれがあるため代理は不可)、
に関しては合法的に自由にラインを超えることができる。
その他に、5階住人は(非貴族含め)男子でも特別に越境が許されるが、
君子危うきに近寄らずである。
4階とは対1・2階同盟を結んでおり、階を越えて個人的交流がある学生も多い。
また、個性派が多いだけにとどまらず、5階の権力者アリエルと
非常に仲のいい女性もいることから、5階を恐れさせる唯一の階である。
なお、当の3階は「なんか優雅そう」とかいう一方的なイメージだけで5階に憧れている。

対外関係:

平時は烏合の衆だが、非常時には彼女らをまとめることができるリーダーを擁する。
個々は問題児にすぎないが、階全体をみると肉弾、魔法、交渉の各分野に
強力な駒が揃っており、それらがかみ合ったときの爆発力は計り知れない。



普通の2階(そこそこの有力者の子弟の男子が多い)

概要:

階訓は「自由」

凄いのは5階へ、別の意味で凄いのは1階へ行くため、
比較的当たり障りの無い学生が多い。
あとは、親の財力が比較的高いことから、長期熟成されて変なのができるかどうかである。
なお、駄目な方向に熟成された人間はそもそもテストに出てこないので、
平均点だけならば他の階に抱かれているイメージよりも高い。
2階の雄、マキールがのらりくらりと階を束ねている。

同盟関係:

1階と同盟関係を結ぶも、粗野な1階を低く見ている節はある。
3階と4階には危険視されているが、一般の2階学生は好戦的ではなく、
女子の階に対して単独で何かやらかす階があったとしたら、大抵それは1階である。
(つまり、2階は1階のとばっちりを結構受けている。)
5階には、あってもなくても同じだと思われている。
ただし、5階の平民(大商人の子弟)は、親の収入や社会的地位が一番近いためか、
心情的には2階に親近感を抱く場合が多いようだ。

対外関係:

弱い。他の階との同盟関係が薄い分、総合力なら4階より弱い。
唯一の希望は、栄光の四人のうち、2人もが2階出身であることである。



最凶の1階(余った男子はここに入る)

概要:

階訓は「牙を失うな!」

上下関係がわりと厳しく、インテリにしては驚くほどケンカが強い。
階内の存在価値は、平時においては「1.在籍年数」「2.年齢」
「3.所属派閥の最大戦力」「4.個人の戦闘能力」「5.その他」
の順に考慮されるのが慣例。ただし、近年、1階の学生同士が揉めに揉めた際は、
魔法を使わない1対1の拳の勝負で解決されていることから、
実際には戦闘能力が重視される傾向にある。
なお、同派閥内の揉め事の処理「方法」は、派閥のトップに一任される。
また、富裕層以外の男子特待生が多く配置されることから、
平均点以外なら別の階にも負けていない。

派閥別ではあるものの、指揮系統が比較的しっかりしており、
その時のリーダーによって危険度が大きく変わる階でもある。
現在では階の勢力がほぼ三分されており、番格のランラン(武力)、
誰にでも優しいストリィ(人望)、完璧超人のアクトゥス(成績)
の合議による三頭政治が行われている。

同盟関係:

2階と同盟関係を結ぶも、軟弱な2階を低く見ている節はある。
3階と4階には嫌われ、5階には、特待生以外はいないものとして扱われることが多い。

対外関係:

ケンカが強い。魔法無しの乱闘なら負けない。


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