僕らがここにいる不思議。








G   M:一方、異世界に飛ばされたレイディアたち。
      まず、重傷を負っただけだったレイディアが、洞窟の中で目を覚まします。
      精神力は、(そもそもいったんゼロになった自覚はないですが)
      いつの間にか活動できる程度には回復していますね。

レイディア:……ここは?

G   M:(ころころ)記憶術の出目は平目で11。
      いいところまでいきますが、あとちょっとで出てきません。
      ただ、この景色をいつかどこかで見たことがあるのは確かです。
      そして、レイディアは、降臨したミゴリと戦い、
      ディースと一緒にメテオを受け、意識を失ったことまでは思い出しました。
      気付けば、近くに仲間たちも全員倒れています。
      意識はありませんが、生きています。外傷もありません。
      ただ、明らかに爆風を浴びた痕跡のある鎧を着ている人物が数名。
      レイディアの記憶にある、メテオ・ストライクを受けた者と一致します。
      もちろん、フアナの鎧はひどく焦げています。

レイディア:ディースが、助けてくれたの……?

G   M:当のディースも意識を失っていますが。

レイディア:……?

???  :助けたのは私です。

レイディア:!?

G   M:レイディアの視線の先には、長い黒髪の神官衣の女性の姿が。
      白い神官衣は、色とりどりの絵の具でところどころ汚れています。
      ただ、どうも血色というか生気というか、そういったものには欠けています。
      かといって、幻覚かというとそうでもなく、実体はありそうな……。

レイディア:……誰?

???  :私はヴェーナー。歴史と運命、そして、芸術の神です。

レイディア:……まあ、あの状況で助けられるっていったら、神しかないっすよね。

ヴェーナー:話が早くて助かります。

レイディア:でも、なんでヴェーナー、様が?

ヴェーナー:私が啓示を与えた最高司祭の、コール・ゴッドにより降臨しました。

レイディア:よくできた話っすね。それ、その人の姿っすか?

ヴェーナー:歴史上の最高司祭の中から、あなた方の世界の
      ヴェーナーのイメージに合致するものを選びました。

レイディア:? ……ここにいるってことは、ミゴリはもう?

ヴェーナー:私はヴェーナーの残留思念です。本体は、異世界で、ミゴリと戦っています。

レイディア:……? ……いっ、異世界っ!!!?

ヴェーナー:時間は充分にあります。彼らも一緒に話をしましょう。

G   M:ヴェーナーの言葉を合図にしたように、
      倒れていた仲間たちも意識を回復します。体も普通に動きますね。

ディース :ふーっ、よく寝たぜ……で、ここどこ?

フアナ  :……ちょめちょめ……。

ヴェーナー:私はヴェーナー。歴史と運命、そして、芸術の神です。

フアナ  :……マジ?

レイディア:マジっぽい。

トゥエリ :この人と話してたレイディアさんが言うんでしたら、そうなんでしょうネ。

カトレア :んー。またマイナーなのが来ちゃいましたねー。

ディース :お前が言うなよ。

フィーエル:あう!

G   M:記憶術の判定は(ころころ)フアナ13、トゥエリ10、
      カトレア14、ディース8、フィーエル9。
      実は目標値は12しかなかったので、フアナとカトレアにはわかります。
      ミノタウロスの洞窟の奥にあった、ゲートの洞窟ですね。

フアナ  :…………!?

ディース :ミゴリは?

カトレア :我が神に逃がしてもらえるとは思えないんですが……。

フィーエル:あうー。

トゥエリ :私、死にませんでしたカ?

フアナ  :……ここ、ミノタウロスを倒した……奥の……!

G   M:それに関しては神の力で忘れさせられたわけでもないので、
      言われたら思い出しますね。カトレアも、ファーランドに行く前に、
      あそこでミノタウロスと戦った話は聞いています。

レイディア:ああっ!!

トゥエリ :言われてみればそうデスね。

ディース :つーか、ミゴリは?

フアナ  :……生き返れたってことは……もう、誰かに倒されてる……?

レイディア:それが、そうじゃないっぽいんだけど。

ヴェーナー:私はヴェーナーの残留思念です。本体は、異世界で、ミゴリと戦っています。

フアナ  :……異世界……ディメンジョン・ゲート……?

ディース :くしししし。異世界だってよ。召喚でもされたのか?

トゥエリ :にわかには信じがたい話デスね。

レイディア:まあ、そういう反応になるわよね。うん。

フィーエル:ここ、見たこと、ある!

ディース :おせーよ! お前、猫がいねーとダメだな。

ヴェーナー:肉体を有する神の力をもってしてのみ、特殊な扉を開くことができます。
      人間の開くゲートの座標は、通常3つ。

フアナ  :……縦、横、高さ……?

ヴェーナー:その通りです。では、異界からデーモンを召喚できるのは、なぜでしょう?

レイディア:実は、異界に見えて異界じゃない……距離が離れてるだけとか?

トゥエリ :でも、異界はやっぱり異界じゃないデスかね?

フアナ  :……座標が、もう1個増える……!!?

ヴェーナー:その通りです。術者が知っている世界であれば、ゲートを
      異界への門とすることができます。人間の開くゲートであってもです。

レイディア:で、ここは元の世界とよく似た異界ってことっすか?

フィーエル:あうー。いかいー。

ヴェーナー:平行世界、という言葉を聞いたことがありますか?

ディース :あ、俺わかる! そっくりな別の世界だろ!

トゥエリ :相変わらず、変な言葉を知ってますネ。

フィーエル:あうー。知らない。

フアナ  :……それ、おとぎ話じゃ……なかったの……!?

ヴェーナー:神の開くゲートの座標は、さらにもう1つ。時間です。

フアナ  :???

レイディア:? ……もう、好きにしてもらっていいっす。

カトレア :んー。そんな話は聞いたことがないんですけど。

ディース :つーか、タイムトラベルのことだろ? わかるぞ。

フィーエル:あう! 時間旅行!

レイディア:…………疑うわけじゃないんすけど、いくらなんでも無理があるような……。

フアナ  :……それができるなら……神は滅びてない……。

トゥエリ :確かにそうデスね。

ヴェーナー:時間移動の条件は、世界に矛盾を引き起こさないこと。
      この意味が、わかりますか?

レイディア:わからないっす。

フアナ  :……降参……。

ディース :タイム・パラドックスってやつ?

フィーエル:あうー。それ、なんだっけ?

ディース :なんかの冒険小説に書いてたんだよな。読んだけど、いまいちわかんねえ。

フアナ  :……今は……子供の遊びの話じゃない……。

ディース :なんだよ。俺、真剣にやってるんだけど。

カトレア :んー。それだけ荒唐無稽な話ってことですねー。

レイディア:よかったら、順番に説明してもらえないっすか?

ヴェーナー:平行世界は、似ていますが、別の世界です。

トゥエリ :それはなんとなく分かりましたガ。

ヴェーナー:あるいは、異なる歴史を辿った世界、といえるかもしれません。
      違いが最も顕著なのは、ファーランドと呼ばれる大地。
      そこが王国となっている世界もあれば、不毛の地となっている
      世界もあります。この世界のファーランドは、大迷宮となっています。

フアナ  :……競技場じゃ……ないの……?

ディース :大迷路だってよ。行ってみてーな。

トゥエリ :壊れていない堕ちた都市、的なものでしょうカ?

レイディア:質問は後よ。今は話を聞きましょう。

ヴェーナー:神々の大戦など、歴史上極めて重要な出来事は、
      どの世界でも共通して起こります。
      国の興亡の流れ、主要な都市の名前なども共通です。
      しかし、小さな都市の名前などは、世界によって大きく異なります。

フアナ  :……つまり……歴史の糸を引く者が……いるの……?

フィーエル:まさか、始源の、巨人?

レイディア:始源の巨人はちょっと違うと思うけど……。

ヴェーナー:三界に散った神の魂は、肉体を持った同じ神の存在とは矛盾しません。
      ゆえに、ある世界で降臨した神は、別の世界に転移することができます。
      ですが、神々の大戦の前には決して戻れません。
      魂が砕けていない同じ神相互は、同じ世界に併存できないのです。

ディース :思い出した! 過去の自分と会ったら、どっちかが消えるんだよ!

ヴェーナー:神の力をもってしても、世界を矛盾させることは叶いません。

レイディア:それって、同じ人間同士は大丈夫なんすか?

ディース :現にこの世界にいれてるんだから、別にいいんじゃね?

レイディア:そうじゃなくて、もう1人の私がこの世界にいるんじゃないかってことよ。

フアナ  :……ずっと……洞窟で過ごす……?

ヴェーナー:その心配はいりません。
      ここは新王国歴350年。ボーアの滅亡前の時代です。

G   M:新王国歴350年が今(?)から150年以上前だということは、
      全員わかります。ボーアについては、(ころころ)出目4のカトレア以外は
      全員分かります。レイディアも出目3ですが、
      セージ技能が高いのでわかりました。
      はるか昔に滅亡した、大陸西部の王国です。
      歴史書によれば、今から(?)25年で滅亡するそうですが。

カトレア :ボーアって何ですか? 蛇?

フィーエル:あうー。蛇、違う。国、だよ。

ディース :カトレアって、本当は馬鹿なんじゃね?

カトレア :……ははは。

トゥエリ :目が笑ってないデスね。

レイディア:フアナ、あんた今何歳?

フアナ  :……知らない……。

レイディア:自分が生まれた年くらいわかるでしょうが!

フアナ  :……どうでもいいし……。

ヴェーナー:カタリナは生まれていません。

トゥエリ :ということは、フアナは170歳以下というわけデスか。

レイディア:ちなみに、これからフアナがこの世界で生まれたら……どうなるんすか?

ヴェーナー:起こった未来は変わりませんが、これからの未来は確定していません。
      矛盾を避けるようにして、未来はつくられていきます。

フアナ  :……その発言が……自己矛盾してる……。

カトレア :んー。でも、僕ら未来から来たんですよねー?

トゥエリ :来た時点で色々とまずそうデスよね。

ディース :異世界なんだから、別にいいんじゃね?

レイディア:この世界のフアナは最初からいなくなったことになる、とか?

フアナ  :……さっき、起こった未来は変わらないって……。

レイディア:うーん……でも、それだと、これからの未来どうこうっていうのが……。

フアナ  :……やっぱり……わたしは一生洞窟……?

ディース :たまには顔見にきてやるから、元気出せって。

レイディア:……この世界の未来で起こった歴史は1つの姿で、ここから分岐になるとか?

ヴェーナー:その通りです。したがって、これからあなた方の作る歴史に、
      別のあなた方が登場することはありません。

レイディア:それが、ミゴリ降臨前に戻って首領を殺さなかった理由……。

ディース :セルの卵状態ってか?

フアナ  :……仕組みが、わかってきた……。

ヴェーナー:肉体を持たない神と、肉体を持った同じ神の存在とは矛盾しません。
      しかし、肉体を持った神の力が、世界と矛盾することもあります。
      その結果、神は、微細な例外を除き、元の世界でしか力を振るえません。
      平行世界に存在する神相互は、その神の力が弱い世界を除き、
      お互いの世界の状況を全て知ることができます。

レイディア:私らの存在は、微細な例外っすか……。

ディース :ま、そんなもんだよなぁ。

カトレア :でも、その話が本当なら、ミゴリもここにたどり着けるんじゃ?

フアナ  :!!?

レイディア:うーん。確かに、異世界に送れるんなら、連れ戻すこともできそうね。

ヴェーナー:その心配はありません。異世界の中には、
      ある神の存在がほとんど認識されていない世界や時代もあります。
      そして、そのような世界あるいは時代では、その神の力が極めて弱いのです。

トゥエリ :つまり、ここはミゴリの力が弱い世界なんデスね。

レイディア:ちょっと、私のセリフ取らないでよ!

カトレア :なるほど。それだと、僕、魔法使えなかったりします?

ヴェーナー:おそらくですが、使えると信じれば使うことができます。

カトレア :そうですか。それを聞いて安心しました。

ヴェーナー:神の力には、大きく分けて2通りのものがあります。
      1つは、法則に従った力。魔法などの形で、人間も使いうる力です。
      1つは、法則に反した力。ときに世界と矛盾しうる力です。

フアナ  :……テレポートなら、時間座標だけが……後者……?

レイディア:矛盾したら、世界に消されたりするんすか?

ヴェーナー:矛盾が修正されることはあるでしょう。

レイディア:……というと、修正の形はどうなるんすか?

ヴェーナー:修正されるまではわかりません。

レイディア:なるほど……。

ヴェーナー:後者の力の大きさは、その世界での神の力と、
      その世界での神の肉体の有無で決まります。
      肉体を持ったミゴリはこの世界をの存在を感知しているでしょうけれど、
      実害を及ぼすことはできません。

フアナ  :……この世界の……肉体じゃないから……。

カトレア :でも、信者がいれば、啓示は下せますよね?

ヴェーナー:この世界のこの時代に、ミゴリの信徒は存在しません。

カトレア :んー。安心したような寂しいような……。

ヴェーナー:あなた方の選択肢は2つあります。
      1つは、元の世界に戻る道。
      私の本体がミゴリを倒した後、あなた方を元の世界に送還します。
      1つは、ここにとどまる道。
      この世界の歴史を、あなた方が作ります。

レイディア:歴史の教科書に載るチャンスね。私にふさわしいわ。

ディース :俺、竜殺しの英雄になるぜっ!!

レイディア:(家、帰らないでいいのかな? 私についてきてくれるのかな?)

トゥエリ :話がおいしすぎる気がするんデスが……。

カトレア :んふふ。今のうちに、ダークエルフの絶滅を。

フアナ  :……夢が……広がる……。

フィーエル:あうー。かえりたいー。

レイディア:1人だけ帰したりも、できるんすよね?

ヴェーナー:もちろんです。

レイディア:ああ、夢のような世界……。

フアナ  :……でも、ミゴリが勝ったら……選択肢がなくなる……。

ディース :せっかく誰かが命がけでヴェーナー呼んだんだから、勝ってほしいよな。

レイディア:そうね。あっちの世界が滅亡したら、めちゃめちゃ寝覚め悪いし。

トゥエリ :まあ、ミゴリの降臨は不可抗力でしたけどネ。

レイディア:あとは、元の世界でミゴリが倒されてくれれば万事解決ね。

ヴェーナー:……今、私の本体が敗れました……。

一同   :!?

ヴェーナー:安心してください。ミゴリがあなた方に手を出すことはできません。
      また、私の本体との戦いで、ミゴリは激しく消耗したようです。
      誰かが別の神の降臨を願えば、容易に倒せるでしょう。
      あなた方は、ミゴリが倒されてから元の世界に帰ることもできます。

レイディア:まあ、負けちゃったもんは仕方ないっすね。

ディース :そうそう。次勝ちゃいいんだって。

フィーエル:あうー。たいへん……。

カトレア :複雑な気分ですねー。

トゥエリ :攻撃されたんデスから、もう見捨てていいと思いますヨ。

カトレア :いやー、そういうわけにもいけませんからねー。参ったなー。

フアナ  :……対岸の、火事……。

トゥエリ :車輪騎士団とも揉めてましたしネ。

レイディア:でも、私らが歴史改ざんみたいなことしちゃって、本当にいいんすか?

ヴェーナー:肉体を持った神は、自らの世界の法則をある程度曲げられます。
      神の意思のみで起こす雷や炎が、その最たるものです。
      また、その神の特性に応じ、関わった世界の法則を大きく曲げられます。
      ミゴリであれば、復讐に関わる法則を、私であれば、歴史に関わる法則を。

レイディア:なるほど。降臨したのがヴェーナー様だったのがよかったわけっすね。

カトレア :んー。その辺今まであんまり深く考えてませんでしたねー。

レイディア:神様は万能って先入観があったから、そこで思考停止してたわ。

フアナ  :……万能だったら……世界に介入する手段を失ったりしない……。

トゥエリ :フアナは神をも恐れませんネ。

ヴェーナー:後者の神の力は、複数の世界にまたがります。
      影響を受けたとしても、自分を恥じることはありません。

カトレア :んー。そう言われても、自分の意思でやってますからねー。

レイディア:ミゴリは来ないんすよね?

ヴェーナー:はい。ゲートは開いたままですが、ミゴリには通れません。

レイディア:開いたまま!?

フアナ  :……時間制限は!?

ヴェーナー:世界には矛盾を修正する力があります。
      放っておけば、あと1年でゲートが閉じるでしょう。

ディース :1年間、探検し放題か。

レイディア:コール・ゴッドが切れても、使えるんすか?

ヴェーナー:本体のコール・ゴッドはとうに切れています。
      歴史に関わる法則に逆らい、時間の流れを一部ゆるやかにしているだけです。
      そして、その逆のこともしています。

トゥエリ :それで、死んだばかりの私たちが普通に動けてるんデスね。

レイディア:さすがはヴェーナー様っすね!

G   M:(ころころ)突如、ヴェーナーの胸、
      心臓の位置を突き破って、灰色の触手が生えてきました。
      よく見ると、何もない空間がガラスのように割れていて、
      そこから出た触手に貫かれていますね。

ヴェーナー:……ま……まさか……。





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