にんげんがり








G   M:マリアとフアナが戦っている頃、ロベールは人形の再設置を待っていました。
      砦の火は消え、野盗団も一応の迎撃態勢は整っています。

騎士   :ロベール様、第二波の攻撃はまだでしょうか?

ロベール :まだだ。あの女め、要らん時間を……!






敵が警戒しているかもしれない場所に単身斬り込んで人形を設置したのはベスなのですが、
知力が低く、記憶術に必要なシーフ技能もないため、
設置場所を正確に覚えておくことができませんでした。
本来なら、人形本体の探知能力により、人形が破壊されるか、
4つ同時にディスペルされるか、パーフェクト・キャンセレーションで永続的に
魔法を解除されない限り、人形が動かされてもその位置はロベールが把握できます。
例外は、ただの逆探知魔法にとどまらず、
探知魔法を一時的に解除してしまうという能力を秘めたカウンター・センス。
人形の位置を伝えるのは人形の探知能力によるものですので、
カウンター・センスで解除された時点で、人形の位置がわからなくなってしまいます。
もちろん、ロベールはカウンター・センスがこの能力の天敵であることは
把握していましたし、仮に新たな侵入者があっても
カウンター・センス使用前に取り囲むことは容易です。
しかし、カウンター・センス使用済みの術者の乱入は完全に想定外でした。
もちろん、探知能力が切れても、(勝手に動かされてない限り)大体の位置が頭にある
ロベールが取りに行けば早かったのですが、本陣を離れることはできません。
それに、まがりなりにもファリスの司祭であるベスの能力を
(司祭になるには神学の成績が必要だから記憶は得意だろうと早合点して)
少々買いかぶっていたという側面もありました。

さて、無駄な時間を使いつつも、ベスは人形の回収に成功。
ロベールは人形の家で人形の探知能力を復活させ、ベスに再設置を任せます。
その再設置の途中で、フアナとマリアに遭遇したというわけです。
結局、ロベールの判断ミスにより、車輪騎士団はかなりの時間をロスしました。






G   M:一方その頃、砦の内部、最上階の一番奥の部屋。
      ダークエルフのマシェンスが、扉を閉めたまま、
      部屋の外からの部下の戦況報告を聞いています。
      そして、ベッドには、リザレクションで蘇生された
      ソリッシュとピニーズの姿があります。
      ソリッシュは数日前に復活しているので意識はありますが、動けません。
      ピニーズはまだ目を覚ましません。

手下   :ボ、ボス、敵が二手に別れました! 叩くなら今ですぜ!

マシェンス:乗せられるんじゃねぇ、陽動だ!

手下   :わ、わかりやした! でも、これからどうしやす!?

マシェンス:…………もう少しでソリッシュが動ける。それまで踏ん張れ。

手下   :わかりやした!

G   M:慌しい足音を残して、手下が去っていく気配がしました。

ソリッシュ:……ボス……まさか、裏口が……。

マシェンス:……だろうな。手際が良すぎる。






実際は、車輪騎士団が二手に別れたのは、探知用のマジックアイテムの再起動のためです。
しかし、手下を通じてしか外の状況を把握できないマシェンスたちには、
分かるはずもありません。それどころか、フアナたちの乱入にすら気付いていませんから。
(そもそも、ここまで組織的・計画的に攻め込んでくる
敵の全勢力が小隊規模だとは露ほども思わず、
他にも車輪騎士団の軍勢が山を囲んでいると信じているほどです。)。
そして、攻撃中に二手に分かれる意図が他にわからないことから、
最悪のケースを想定してしまいます。
かつてここを根城にしていた山賊団が築いた緊急脱出用の隠し通路の存在が、
車輪騎士団に露見していると考えたのです。



仮にフアナがジェネラル技能の判定で死角を見つけていれば、その付近で、
カモフラージュされた隠し通路の出口を発見していたかもしれません。
発見すれば、そこを見張れる位置で儀式をすることになり、
発見しなくても、車輪騎士団の死角ですんなりテレポートの儀式が整います。
そうなれば、その間にベスがすんなり人形を再配置し、
車輪騎士団の再攻撃の間に、まんまと逃げおおせるつもりで
(囲まれてはいるがメイズ・ウッズ等で突破できると計算して)マシェンスが逃走。
そして、彼が山の内部を移動したことにより、ロベールが隠し通路を察知し、
首領だけは逃すまいと、全兵力を結集して崖の裏側に回っていたでしょう。
そして、(レンジャー技能の判定次第ですが)テレポートで移動したレイディアたち、
マシェンス、車輪騎士団(探知能力のため、不意打ちされない)、
が遭遇という展開になっていたでしょう。



あるいは、マシェンスたちにカウンター・センスさえあれば、
探知されるたびに探知を無効化し、そのまま裏口から出て、
足跡を追った車輪騎士団とベスを皆殺しにしていたでしょう。
(10レベルの精霊使い兼9レベルの暗黒司祭対5レベルの戦士の集団では、
全く相手になりません。ミュートはかなりの確率でベスの魔法を封じますし。
そして、レンジャー10レベルのマシェンスは容易に不意打ちが可能です。)
なお、マシェンスが情報収集の手段がないまま、
なおかつ探知も解除されないまま裏口から出た場合には、
なぜか自分めがけて正確に飛んでくる弓矢で移動を封じられた挙句
(1ゾロはダメージ素通しなので、無視するわけにもいきません)、
山ごとこんがり焼かれていたでしょう。



もっと遡れば、カトレアをフアナに任せてレイディアとマリアがここに飛んでいれば、
レイディアの口車とマリアの圧倒的武力を背景に、
交渉は上手くいったでしょう(なお、得体が知れないという先入観を持たれるため、
両方人間外のフアナとマリアの組み合わせでロベールと交渉するのは無謀です。)。
そして、レイディア、マリア、ロベール、ベスが力を合わせれば
マシェンスの捕縛は容易でした。(例えば、マシェンスが逃亡しようとした後、
レイディアの発案で、マリアが飛び、ロベールの指示通りに上空から投石すれば……。)



しかし、実際にはそのような事態は起こりませんでした。
フアナ+マリアと車輪騎士団+ベスが意識せずに足を引っ張りあった結果、
予期しなかった2つの事態が生じます。
ひとつは、完全に包囲されたというマシェンスの誤解。
隠し通路を抜ける前に蒸し焼きにされたのでは、
メイズ・ウッズどころの話ではありません。
そして、もうひとつは、マシェンスに残されたわずかな時間的余裕。
この2つが、事態を最悪の方向へと動かしてゆきます。






そして、完全に進退窮まった(と思った)マシェンスの元に……。






G   M:マシェンスの頭の中に、何者かの声が直接語りかけてきます。
      たまに聞くことができるファラリスの声とはまた違った声です。

ミゴリ  :ふぁらりすのしもべよ。

マシェンス:……な、何だ? どこにいる!!?

ソリッシュ:

ミゴリ  :わがこえをきいたか。ふくしゅうをのぞむものよ。

マシェンス:……復讐? 誰なんだおめーは!?

ミゴリ  :われはみごり。うらみのかみ。

マシェンス:……ミゴリ? ……恨みの神、だと……?

ソリッシュ:……ボス……ま、まさか……ミゴリの声を……。

ミゴリ  :ふぁらりすをすて、われにつかえよ。

マシェンス:断るに決まってんだろ!! 急に出てきてなんだおめーはよ!?

ミゴリ  :かんづいておろう。ふぁらりすは、なんじをたばかった。

マシェンス:……なに?

ソリッシュ:……ボ、ボス…………いけません…そいつ……は…。

G   M:ミゴリの声が大きくなり、ソリッシュの声が聴き取りにくくなります。

ミゴリ  :なんじはわれのこえもきくことができた。すべてをうしなったあのひに。

マシェンス:………………お見通し……ってわけか……。

ミゴリ  :なんじはにんげんをおそれていた。

マシェンス:怖くなんかねぇ! 追いついた奴もみんな殺してやったさ!!!

ミゴリ  :なんじはふくしゅうよりかねをえらんだ。

マシェンス:当たり前だ!! 派手に殺しすぎたら捕まるだろうがよ!

ミゴリ  :なにゆえなんじはふぁらりすをこうりんさせられなんだか。

マシェンス:……それは……俺の経験不足だ。

ミゴリ  :せいれいはうまくあつかえるのに、なにゆえか。

マシェンス:信仰心が足りなかったんだよ!!! もっと人間を殺しとけば……。

ミゴリ  :しもべのおこすきせきはかみのちから。かみはちからをかさぬこともできる。

マシェンス:……何が言いたい?

ミゴリ  :なんじはかねにしゅうちゃくし、じゆうをかろんじた。

マシェンス:俺がどうしようと自由だろ!!

ミゴリ  :なんじはかねにこまらねば、ちつじょをもとめる。

マシェンス:うるせえ!!!

ミゴリ  :ちつじょをこわすため、ふぁらりすはなんじをたばかった。

マシェンス:黙れ!! 黙れ黙れ黙れ!!!

ミゴリ  :いもれいと、というきせきがある。いけにえをきんかいにかえられる。

マシェンス:……それがどうしたっつうんだよっ!?

ミゴリ  :それはふぁらりすがちゅうきゅうのしんとにあたえるちから。

マシェンス:…………何、だと……!!?

ミゴリ  :ふぁらりすのしさいがおんなこどもをさらうりゆうぞ。

マシェンス:…………。

ミゴリ  :ふぁらりすがおしえていれば、なんじがおいつめられることもなかった。

マシェンス:………………。

ミゴリ  :すべてをすて、われにつかえよ。さすればなんじにちからをあたえる。

マシェンス:…………改宗か……聞いたことはあるが……。

ミゴリ  :ふぁらりすがあたえられるちからのすべては、われもあらえられる。

マシェンス:……でもよぉ……。

ミゴリ  :このじたいをまねいたは、ふぁらりすのしわざぞ。
      われであればなんじをすくえる。

マシェンス:………………どうすればいい?

ミゴリ  :ふぁらりすをすてるとちかい、われにいのりをささげよ。
      なんじのすべてとひきかえに、なんじにちからをあたえる。

マシェンス:……へへ……それで助かるんなら。復讐の神ミゴリよ……我に力を!!!

G   M:マシェンスは全身を襲う脱力とともに、新たな力の目覚めを感じます。
      マシェンスは全ての技能を失い、引き替えに、ダークプリースト
      技能(ミゴリ)10レベルを得ました。

マシェンス:すげーな。……で、これから何すりゃいいんだ?

ミゴリ  :まだたりぬ。ふぁらりすにかんしょうされた。

マシェンス:……なっ、何だとっ!? 

ミゴリ  :あんずるな。てはある。われのいうとおりにせよ。

マシェンス:……ああ……何をすりゃいいんだ?

ミゴリ  :そのものにしをあたえよ。なんじをおいつめたにんげんぞ。

マシェンス:ソルを!!!? こいつだけは駄目だ。

ミゴリ  :なにゆえか。なんじのむらをやきはらったしゅぞくぞ。

マシェンス:こいつは特別なんだ!! こいつだけは勘弁してくれ!!!

ミゴリ  :ならばどちらかをえらべ。われかにんげんか。

マシェンス:……そんなこと言われてもよぉ……。

ミゴリ  :いきたままやかれたもののさけび、わすれたわけではあるまい。

マシェンス:……。

ミゴリ  :にんげんをいかしておけば、またいつかなんじらのむらをおそう。

マシェンス:……。

ミゴリ  :こやつのちちもだーくえるふをころしたことがあるぞ、たくさん。

マシェンス:……何っ!?

ミゴリ  :ちちがだーくえるふをころしたはなしを、わらいながらきいておった。

マシェンス:…………。

ミゴリ  :なんじのこどもはにんげんにころされた。きづいておろう?

マシェンス:………………。

ミゴリ  :こやつもいつかわらいながらなんじのこどもをころすぞ。

マシェンス:………………。

ミゴリ  :いけにえをもちいて、ふぁらりすのかんしょうをとかねば、なんじがしぬ。

マシェンス:…………わかったよ。どうすりゃいいんだ?

ミゴリ  :こやつをいけにえとし、われをこうりんさせよ。

マシェンス:……ちっ……じゃあな、ソル。

ソリッシュ:ボス!? ボス!?

マシェンス:コール・ゴッド!

G   M:悪人ですがプリーストではないので、生贄のボーナスはありません。
      (ころころ)達成値22で、抵抗は(ころころ)出目3で失敗。
      ソリッシュの体にミゴリが降臨します。

ミゴリ  :ようやった。わがしもべよ。

マシェンス:……ああ。……約束通り、助けてくれるんだろうな?

ミゴリ  :にんげんをねだやしにするとちかえ。さすれば、ちからをあたえる。

マシェンス:助けてくれ! 誓うから!

ミゴリ  :なんじにちからをあたえる。

G   M:マシェンスの体に、人知を超えた力が流れ込んできます。
      マシェンスの精神力が99になりました。
      マシェンスの精神抵抗力が+4されました。

マシェンス:おお!! 凄ぇ力だ……。

ミゴリ  :ふらんてぃっく・みっしょんをとなえよ。
      おおくのにんげんをころすために。
      にんげんをころしつづけるかぎり、あくえいきょうはない。

マシェンス:わかった。フランティック・ミッション!

G   M:(ころころ)達成値22で、フランティック・ミッションがかかります。
      マシェンスは復讐を第一に考えるようになりました。
      全ての成功ロールに+2のボーナスが与えられるようになりました。

ソリッシュ:……力が……溢れてくる……。

ミゴリ  :こうりんしたかみには、たやすいこと。

G   M:そして、いつの間にか、マシェンスの手には拳大の金塊が握られています。

マシェンス:おおおおお!!! 金だ!! 金だぁっ!!!

ミゴリ  :たやすいことよ。にんげんをころし、いけにえにささげよ。

マシェンス:ははははははは!! そりゃあいいな!!





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