水清き瀬にたゆたう唄








G   M:さて、しばらくの休憩時間の後、審査員の採点が発表されます。
      観客の採点は、最後の挨拶をした参加者に対する歓声に応じて割り振られる
      わけですが、全員に歓声を上げていては全員の評価が上がってしまいます。
      そこで、特定の女の子を応援したい人は、
      その子のときだけ大歓声を上げるという、細かい駆け引きが行われています。
      もちろん、全員に歓声を送る観客や、複数の子を推す観客も存在しますが。

司会   :例年通りですが、説明をさせていただきます。
      審査員票は10人の審査員が1人2票の持ち票を、
      1票単位で自由に投じます。観客の皆さんの票は、
      5票を歓声の大きさに応じて小数単位で配分させていただきます。
      審査員票は中間結果にあたりますので、
      皆さんの投票の参考になさってください。
      なお、1位との差が1票以内の候補者があった場合、
      1票差以内の全員を候補に含め、観客の皆さんだけで決選投票を行います。
      では、これより審査員票の採点結果を公表します。観客票の集計は
      最後に行いますので、今は参加者に惜しみない拍手をお送りください。

G   M:参加者達に拍手が送られ、中間結果が公表されます。
      点数の低い順に発表されるようですね。
      参加者たちは控え室で、自分の名前がいつ出るかとドキドキしています。

司会   :ピェルン・オーマ・ウロクード……2票!
      旅の吟遊詩人が、この日のために街に滞在して挑戦してくれました。
      しかし、観客が多すぎるせいか、一発勝負の歌で実力を発揮できず。
      それでも、例年にも増して激戦の今年に、2票獲得はお見事。
      腕にいっそうの磨きをかけて、来年も挑戦してもらいたいものです。

G   M:オーマは引きつった笑みを浮かべています。

司会   :アルフィア・ベイカー……3票!
      天使の歌声は今年も健在。荒削りではありますが、才能は確かです。
      技術に磨きをかければ、優勝だって夢じゃありません。
      2人の審査員から3票を獲得です。

アルフィア:(@会場のどこか)はぁ。やっぱり無理かぁ……ま、いいかっ!

司会   :キャンディ・バニラアイス……4票!
      飛び入り参加の謎の美女。出身地も秘密と、謎に包まれています。
      ナイフ投げの後、鮮やかな手技で観客を魅了しました。
      4人から1票ずつ、4票獲得しました。演技時の客席の反応から察するに、
      この後の観客票も期待できます。

キャンディ:みんな、ありがとっ!

司会   :ウルク・ヴァルドール……5票!
      今年は今までにない実戦披露で、ドラゴンを倒したという冒険者に
      惜しくも敗れはしたものの、会場を大いに沸かせました。
      5人から手堅く1票ずつ集め、票を伸ばしました。
      自己記録の審査員票3票を、大きく更新です。

ウルク  :うをっ! こ、こんなに入ったことないって!

司会   :レイディア・レインフィールド……6票!
      遠く離れたオーファンの地の魔術師が、飛び入り参加しました。
      なんと、学費全額免除の才女だそうですが、
      予想もつかない一芸で一部の審査員を虜に。
      6票のうちの4票は、2票全てを投じた審査員によるものです。
      初参加にしてこの得票数は、おそらく新記録です。
      このまま歴史を作るのか!?

レイディア:え? この後誰もいないわよね。 私トップ!?

司会   :毎年優勝候補のリスル・エスリール・トゥルクロフは、今年も参加辞退。
      審査員一同、残念がっております。

観客C  :来年こそ待ってるぞー!

司会   :私も待ってます!!

G   M:会場は温かい笑いに包まれます。

司会   :初出場のイリュー・シュヴァルツヴァルトは、残念ながら0票でした。
      来年のさらなる飛躍を期待しています。では、これより参加者の入場です。
      参加者が舞台の中央で順にご挨拶をしますので、自由に声援をお送り下さい。
      ただし、まことに勝手ながら、鳴り物は禁止させていただきます。
      さあ、かつて2票差が覆された例はありませんが、
      キャンディ・バニラアイスは妖艶な美貌の持ち主。
      年若いレイディア・レインフィールドとウルク・ヴァルドールは
      果たして逃げ切ることができるのでしょうか!?

G   M:ここで、スタッフが司会に駆け寄り、何かを渡して去っていきます。

司会   :……えー、たった今入った情報ですが、
      アルフィア・ベイカーは一世一代の急用のため、
      最終投票を辞退するとのことです。
      アルフィア嬢のファンの皆さん、
      まことに残念ですが、他の子を応援してあげてください!

G   M:会場から「えーっ」という声が上がります。

司会   :では、演技の逆順で投票を開始させていただきます。
      お名前と、観客の皆さんへのメッセージをどうぞ!

ウルク  :ウルク・ヴァルドール。応援、ありがとう!
      ……えっと、最後は負けちゃっけど、楽しかった。……来年はボクが勝つ!

G   M:一番手のウルクはいきなり大歓声を浴びます。
      特に、男性人気がとても大きいようです。
      「まだ負けてないぞー!」というツッコミも。
      あとは、「アルフィアの分まで頑張れー!」とか、
      地元同士でアルフィア票もかなり流れてるようです。
      さて、次は1票リードしているレイディア。

レイディア:レイディア・レインフィールドです。今日この街を発ちます。
      けど、絶対また来たいです! ありがとうございました!

G   M:歓声は少ないですが、おっさんからの人気は絶大です。

観客   :がんばれ、酒飲みの姉ちゃん!

観客   :今度一緒に飲もうぜ!

観客   :このまま優勝して祝い酒だ!

レイディア:祝い酒……じゅるり。

キャンディ:よだれ出てるよ。

レイディア:おっと。

フィーエル:がんばって!

トゥエリ :レイディアさーん!

ディース :レイディア、頑張れーっ!!

レイディア:っ!!

フィーエル:(@観客席)あ、今、すごくいい顔した。

トゥエリ :(@観客席)悔しいデスけど、ディースさんしか見えてないデスね。

フィーエル:(@観客席)あうー。

G   M:では、次はオーマ。

オーマ  :精進します。(一礼)

G   M:地元の女の子を下して見事本選出場を果たしたオーマにも、
      温かい拍手が送られます。次はキャンディ。

キャンディ:キャンディだよ。みんな、よろしくねっ!

男の子  :お姉ちゃん、またやってー!

G   M:意外にも、手品を見たことがない子供たちの歓声が。
      ただ、あまりに美しすぎるせいか、女性票はほとんど入りません。

キャンディ:残念だよ。

G   M:次は、アルフィアとエッシャーがいないので、最後のイリュー。

イリュー :……。

ウルク  :アルフィアも勇気出したぜ。今度はお前の番だろ。

イリュー :……イリュー・シュヴァルツヴァルトです。皆さん、本当にごめんなさい!

G   M:その瞬間、会場が割れんばかりの大歓声に包まれます。拍手に喝采に声援に。
      みんな今までは手加減して騒いでたんじゃないのか、ってほどの音量です。

観客   :そんなこと気にするんじゃないよー!

観客   :来年も出ろよ!

観客   :俺は好きだーっ!!

観客   :せめて1票!

観客   :今年は無理だけど、来年こそは!

観客   :頑張るんだよ!

観客   :来年も応援するからっ!!

G   M:花束もいくつかステージに投げ込まれます。
      本来は優勝者に贈るために観客が準備しているものなんですが。
      イリューはまた泣き出しますね。

イリュー :……あ……っく…………あり…が……とう…………。

ウルク  :あー、もう。本選の舞台なんだから、そんなぐちゃぐちゃの顔見せるなよ。
      ……仕方ない奴だなぁ。しばらく隠してやるから、
      その間にボクの服で拭いとけよ。ちょっと汗かいてるけど。

イリュー :……うん。

ウルク  :(小声で)あんま音立てんなよ。

G   M:ウルクはステージ上でイリューの顔を胸に抱く格好になります。
      イリューが泣いている間に、歓声の音量に関する審査員の協議が始まります。
      その間も観客がイリューを励ましたり応援したりしているわけですが。
      ……そして、審査の結果がまとまります。

司会   :これより、観衆点を発表します!
      ウルク・ヴァルドール:1.0、レイディア・レインフィールド:0.5、
      ピェルン・オーマ・ウロクード:0.1、キャンディ・バニラアイス:0.2、
      イリュー・シュヴァルツヴァルト:3.2です。
      イリュー・シュヴァルツヴァルトが圧倒的支持を得て、
      観衆点2位のウルク・ヴァルドールに2.2点の差をつけました。
      1人が観衆票で2点以上を得るのは、この街始まって以来、初めてのことです!

司会   :では、総合得点を発表します。
      6位、ピェルン・オーマ・ウロクード:2.1点
      5位、アルフィア・ベイカー:3・0点
      4位、イリュー・シュヴァルツヴァルト:3.2点
      3位、キャンディ・バニラアイス:4.2点

レイディア:あれ? それって、足し算したら私が1位? え!? え!?

司会   :2位、ウルク・ヴァルドール:6.0点
      1位、レイディア・レインフィールド:6.5点

レイディア:……や、やった!!! やったよっ!!!

司会   :1位との差が1点以内ですので、ルールに従い、決戦投票を行います!

レイディア:……え!!? え!?? え???

キャンディ:最初に言ってたよ。

トゥエリ :(@観客席)ルールなら仕方ないデスね。

カトレア :(@観客席)しかし、観客票では押されてますからねー。

フィーエル:(@観客席)あうー。このままだと、負けるね。

司会   :決戦は上位2人のみで行われます。
      他の子の票はどう流れるのか、非常に見物です。

マリア  :(@観客席)まだ勝ち目はある。我を口説き落としたその口で……。

司会   :では、どちらが優勝にふさわしいか、歓声でお応えください。

レイディア:えっ、アピールなしでいきなり決戦投票!!?
      ……落ち着くのよ。あと少し……逆境を跳ね返して……何か策は……。

マリア  :(@観客席)いかん。負けるのう。

司会   :まずは、レイディア・レインフィールド!

観客たち :わあああああああああああああああああああああああああああ!!!

レイディア:おっ、これはなかなかっ!

司会   :さすがは総合得点1位。脅威の大歓声です。
      では、続いて……ウルク・ヴァルドール!

観客たち :わああああああああああああああああああああああああああああああ
      ああああああああああああああああああああああああああああ
      ああああああああああああああああああああああああ!!!

司会   :さすがは決戦投票。両者譲りません。さあ、審査の結果をお待ち下さい。
      ……結果が届きました。それでは、決戦投票の結果を発表します!
      レイディア・レインフィールド:1.3点!
      ウルク・ヴァルドール:3.7点!
      ウルク・ヴァルドールが、大逆転で初の優勝を飾りました!!!

レイディア:…………やることはやったし、仕方ないわね。

ウルク  :ボク、真ん中で挨拶しなきゃいけないみたい。もう大丈夫?

イリュー :……うん。だいぶ落ち着いた。ありがとう。

ウルク  :良かった。じゃ、ボクは行くよ。

司会   :優勝者には、前年の優勝者ラーセ・スロフトより、花の冠が贈られます。

ウルク  :ちょっと緊張するな。本当にこうなるとは思わなかったから。

スロフト :おめでとう。

ウルク  :ありがと。

G   M:ひざまずいたウルクに、スロフトが花で編んだ冠をかぶせます。

ウルク  :(小声で)って、来年ボクがこれやるの!?

スロフト :(笑顔で)そうよ。

ウルク  :ま、いっか。好きでなったんだから。

スロフト :さあ。応援してくれたみなさんにご挨拶を。

G   M:スロフトは笑顔で一礼して、壇上から控え室に戻ります。

司会   :それでは、優勝者ウルク・ヴァルドールから、皆さんへのメッセージです!

ウルク  :みんな、応援ありがとう! 天国の爺ちゃんも……喜んでくれてると思う。
      ……えっと……みんなに聞いてもらいたい歌があるんだ。
      とってもいい歌。ふるさとの歌。

G   M:ウルクはイリューを連れて、壇上中央に戻ります。

イリュー :え?

ウルク  :歌えよ。練習してきたんだろ?

G   M:ウルクは花の冠を外し、イリューの頭にかぶせます。
      会場は、予想外の展開に、これから何が起こるのかと静まり返っています。

ウルク  :ほら。披露してないのイリューだけだから。

イリュー :そんな……でも……。

ウルク  :みんなイリューを認めてくれた。
      それに、審査員長の長話とかより絶対マシ。

イリュー :……ふふっ。ウルクっておもしろいね。

ウルク  :へへ。最初はボクが歌うよ。 ♪もりふーかきー きしべのみやこー

イリュー :……それ、2番。

ウルク  :えっ、嘘!?

イリュー :本当。1番は、水清き岸辺の都。

オーマ  :伴奏は必要かしら?

G   M:壇上中央に近付いたオーマは、どこからともなく横笛を取り出します。

ウルク  :頼む。伴奏なしで歌うの、案外恥ずかしいんだ。てか、知ってたの?

オーマ  :知ってるわ。レイク・エスリールでしょ?
      古い歌だと思って候補から外したけど、どっちの楽器でもいけるわ。

ウルク  :それは頼もしいな。……あと、ごめんな。

オーマ  :

レイディア:そろそろお客さんがじれてるわよ。私の指揮に合わせてスタートして。

オーマ  :前奏は?

ウルク  :どうなん?

イリュー :普通は1回です。

レイディア:じゃあ、それでお願いするわ。

オーマ  :了解。プロの演奏家として、名誉挽回させてもらうわ。

レイディア:頼んだわ。じゃ、イリュー、お客さんに歌の説明して。
      大声出したら緊張なんか飛んでくわよ。

イリュー :(大声で)歌います。私たちみんなの歌。レイク・エスリール!

レイディア:じゃ、行くわよ。せーのっ!

G   M:オーマが演奏を始め、前奏の後、イリューが歌います。

イリュー :♪みずきーよきー きしべのみやこー
      ♪あおくーすみー そらはれわたるー

G   M:イリューが練習していたのは、
      この街のほとんどの人が知っている郷里の歌でした。
      練習を積んだだけあって、歌唱力は確かなものです。
      その歌に多くの観衆が聴き入り、そして、
      一人、また一人と一緒に歌いだします。
      やがて、中央広場全体を巻き込んだ大合唱になりました。

観衆   :♪帰ろうよ エスリールへ
      ♪帰ろうよ エスリールへ
      ♪星のまたたくふるさとへー

G   M:会場は、誰に向けられるでもない拍手と歓声に包まれます。
      例年にない大きな盛り上がりのうちに、大会は幕を閉じたのでした。





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