あやしいひと
G M:宿屋の入り口には、色々な言語で「時間厳守」と書いてありますね。
皆さんが入ると、店主が出迎えます。
ルーシュン:先程予約させてもらった商人です。
宿の主人 :いらっしゃい。入室は午後2時から午後4時だ。
ここに泊まるからには、時間を守って頂く。
ルーシュン:商談に行きたいんですが、構いませんかね?
宿の主人 :一時外出は、午後5時まで自由だ。食事は午後6時。これも厳守。
午後7時から午後10時までは外出可能。
ただし、午後6時30分から午後10時30分まででないと
入浴ができないので、注意されたい。
ルーシュン:わかりました。今から商談なのですが、護衛は……。
レイディア:時間厳守のようなので、あらゆる事態を想定して、全員が行きましょう。
ルーシュン:お願いします。
G M:さて、ルーシュンの商談がひとまず終わりました。
もちろん、彼は貿易商です。その品物が豊富な場所で安く大量に仕入れて、
それが希少な場所で高く売るという商売です。
大量輸送の手段が、陸路は馬車、海路はまだガレー船が
メインという時代ですので、儲かります。
もちろん、実行するのは、言うほど簡単ではないんですけどね。
レイディア:まあ、貿易商だってことくらいはわかってるけどね。
ルーシュン:ファンドリアの貿易商ギルドとは、懇意にさせていただいております。
フアナ :……商談に護衛を立ち会わせるあたり……気を抜いてない。
ルーシュン:儀礼的なものですよ。センス・ライは使っていただいてませんし。
ディース :その魔法の存在を知ってるあたり、抜け目がねーな。
レイディア:どうでもいいけど、あの宿おかしくないっすか?
ルーシュン:前にも一度利用したことがありますが、害はないですよ。
マリア :我のような規則正しい生活の者には、苦でもないわ。
G M:ちなみに、ルーシュンはチャ・ザ信者ですが、魔法は使えないそうです。
さて、予定通り、5時になる前に全員で宿に帰ってきました。
宿の主人 :おかえり。食事は6時から食べ始めるので、遅れないようにお願いする。
ルーシュン:わかりました。
G M:食事の時間になります。全員が1階の広間で一度に食べる形式ですね。
他の客は3人。老人、少女、商人風の中年男ですね。
そこに、宿の主人とルーシュンが加わります。
料理は用意されていますが、定刻まで手をつけることは許されません。
老人がたびたびこっそり食べようとしますが、
そのたびに宿の主人に注意されます。
フアナ :……ストレスが……たまる。
宿の主人 :……6時になったので、頂こう。
レイディア:仕事中だから、お酒は我慢っ……。
トゥエリ :目が潤んでますヨ。
フィーエル:あう。おいしい。
フアナ :……他の客を……こっそり観察……。
G M:老人はよぼよぼですね。ただ、隙がないのでシーフか何かかもしれません。
ちゃっかりしていますが、人が良さそうな印象は受けます。
少女は結構筋肉がついてますね。
戦闘に熟練していると断言できます。商人は普通ですね。
ルーシュンが席を移動して話をしてますが、主人にとがめられることは
ありません。商人同士、商売のことで話がはずんでいるようです。
レイディア:ん? ファリスじゃないの? 厳格なのは時間だけ?
G M:宿の主人については、よくわかりませんが、
一般的に、冒険者のような職業を経験した者が多いことは知っています。
依頼人については、これまで同行した限りではただの商人です。
さて、そうこうするうちに食事が終わりました。
レイディア:ファンドリアの食事も悪くないわね。
G M:カトレアは、食事の際に復讐談義をしていましたね?
カトレア :んー。覚えてないですが、したかもしれませんねー。
ディース :記憶にもないのかよ!
G M:近くに座っていた少女が、そっと耳元で何かを囁きます。
ディース :うん? 何だ? 知り合い?
G M:同じ神を信じています、とのことです。
カトレア :どうやら、僕と同じ宗派のようですね。今日は彼女と語り明かしますので。
ディース :ちくしょー。俺もフェネス信者になっとくんだったー!
トゥエリ :動機が不純すぎますヨ。
レイディア:布教に出て、二度と帰ってこないでいいからね。
カトレア :明日以降なら信者にしてあげますよ?
ディース :それじゃ意味ねーだろ!
フィーエル:あう。言い切った。
カトレア :あのー、ディースさん?
フアナ :……こいつは気にしないでいいから……行ってくるといい……。
G M:では、皆さんが広間から出ると同時に、宿に1人の男が入ってきます。
男はフードつきのローブを着て、フードを目深にかぶっています。
少女は怪訝そうに見てますね。商人たちはもっと不審そうに見てます。
宿の主人はそういう客に慣れてるのか、平然としていますが。
宿の主人 :いらっしゃい。夕方に1部屋片付いたから、15分以内なら入れるよ。
ただし、ここに泊まるからには時間を厳守してもらうが。
男 :部屋に案内してくれ。
宿の主人 :まずフードを取ってくれ。誰かと入れ替わって時間を破られてはたまらん。
フアナ :……考えすぎ……。
G M:男はフードを取り、顔が見えます。鎧も少し見えますが、皮鎧ですね。
フアナ :……盗賊風?
G M:盗賊風です。小脇に何か抱えていますね。盗品かどうかは不明ですが。
フアナ :……最初から運ぶ予定なら……何か手段を考える。
無造作に抱えているということは……。
男 :早く案内してくれ。
宿の主人 :わしは片付けの予定がある。2階の4号室に入ってくれ。
G M:以下、宿の主人は、皆さんが入ったときに告げたのと
寸分違わぬスケジュールを繰り返します。
宿の主人 :就寝は12時、朝食が午前8時、連泊の手続は午前11時まで、
昼食が午前12時……。
フアナ :……うう……朝、つらそう……。
G M:主人の説明を聞き終え、男は2階へ上がっていきます。
カトレア :僕は彼女の部屋へ。
ディース :後で報告しろよなっ。
G M:部屋割りは、1号室が老人、2号室が少女、3号室が商人、
4号室が先程の男、5号室が物置、6号室が依頼人です。
1・2・3号室が手前側の階段、4・5・6号室が奥側の階段から
通じています。つまり、1・2・3と4・5・6は、
主人がいる1階を通らなければ、互いに行き来できません。
そして、それぞれの階段には、扉が備え付けられています。
レイディア:何か起こりますと言わんばかりね。
G M:ルーシュンは3号室に行って商人と話したいと言います。ついて行く人は?
トゥエリ :誰もついていかないというのはまずいデスよね?
レイディア:なら、カトレア以外の男3人が護衛でいい?
トゥエリ :わかりました。
フィーエル:あう。がんばる。
ディース :いいけど、次は代われよ。
レイディア:私らは6号室で3交代で寝るから。
G M:では、その配置でいいですね? カトレアは夜中まで2号室ですか?
カトレア :んー。話が盛り上がってしまいましてねー。
G M:では、午後12時前に、階段の扉に施錠がなされます。
そういえば、主人がそういうことを言っていたことを思い出しました。
カトレアは2号室に釘付け、6号室に帰れなくなった
ルーシュンと男性3人は、商人の好意で3号室に泊めてもらえます。
ディース :よし、3人交代で寝るぞ。
商人 :そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。
トゥエリ :習慣デスからね。元々、ベッドは2つデスし。
G M:女性陣は?
マリア :レイディアのベッドに潜り込むぞ。
フアナ :……そうして。わたしは1人で、ベッド独占……。
レイディア:いや、これ依頼人のだからまずいっしょ?
フアナ :……すやすや。
レイディア:てめえ、何勝手に寝てやがる!
マリア :気にするな。こっちはこっちで、寝るぞ。
レイディア:さすがに寝袋にするわ。マリア、入りなさい。
マリア :レイディアは寂しがりやじゃのう。
レイディア:別々に決まってるでしょ!
G M:さて、男性陣は当直の順番を決めてください。
ディース :真ん中はお前がやれ。
トゥエリ :はぁ。(嘆息) 仕方ないデスね。
ディース :俺は後に寝るから1番目。フィーエルは3番目だ。
フィーエル:あう。わかった。
G M:そして、夜が明けた頃……。
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