人外魔境








そして、翌日。






G   M:一行は昼過ぎにアデットの街に着きました。
      そのまま、カイルに案内されてギルドへ向かいます。
      通常ならば魔術師ギルドが無くてもおかしくない規模の街ですが。

カイル  :次席のお力です。 ←少し自慢げ

オルフ  :お金集めだけは上手い人でしたからね。

カイル  :いえ、人徳です。(きっぱり)

レイディア:変わった様子がないか、街の様子を観察するわ。

G   M:人影が無いほかは、多少鼠が目に付くかな、といった程度です。

マリア  :汚い街じゃのう。

フアナ  :……ラット・ディジーズだと……凶暴化、しないね。

レイディア:鼠が多いということは、巣になるものがあるんすね。食料庫とか、下水とか。

カイル  :ええ、小さいながらも、下水道の整った街ですから。 ←少し自慢げ

トゥエリ :インスピレーションでわからないということは、朱頭病でもないデスね。

フアナ  :……生きてる患者が手に入れば……精霊力で何かわかるかも……。

カイル  :まずはギルドで次席導師にお会い下さい。

レイディア:まあ、そうするのが筋ね。行きましょう。

G   M:ギルドは5階建ての建物です。内部は鼠の姿もなく、小奇麗な感じです。
      カイルが受付で話すと、4階に通されますね。
      この階は、次席導師一派が影響下に置くフロアです。
      少し待たされた後、応接室に通されます。
      応接室には、髭を蓄え、長髪を後ろで束ねた男が立っています。
      頭頂部は禿げ上がっていますが、目つきは鋭いです。
      そして、導師クラスのローブに、年季の入った杖を持っています。
      顔はオルフの面影がありますね。

アーガム :当支部次席導師のアーガム・ウォルフォードだ。よろしく頼む。
      私を導師とは考えず、楽にしてもらいたい。

レイディア:(営業スマイルで)よろしくお願いします。

フアナ  :……夜露死苦……。 ←発音は同じ

フィーエル:あう。よろしく。

オルフ  :無言で一礼します。

トゥエリ :息子さんにはいつもお世話になっておりますヨ。

マリア  :オルフももう少しするとこうやって禿げるのかのぅ?

アーガム :……。

レイディア:すっ、すみません!! ……マリア。お願いだから黙ってて。

オルフ  :まさか、こういった形で再会するとは……。

アーガム :カイル、ご苦労だった。あの話は聞かせたか?

カイル  :(直立不動で)はいっ!

アーガム :そうかそうか。良いぞ。

カイル  :(直立不動で)はっ!

アーガム :あの後、3人が新しく暴れだし、取り押さえると死んでしまった。

カイル  :……。

オルフ  :まずは死体を見てからですかね。

アーガム :地下に臨時の死体安置所がある。
      話は通してあるので、カイルと一緒なら通れるだろう。
      報酬についてだが、最低でも1人500、
      原因を突き止めてくれれば1人1000、
      排除してくれれば1人2000、でいかがだろうか?

フィーエル:あう。高い?

レイディア:私ら、もうそういうレベルよ。まあ、相場よりちょっと高いけどね。

アーガム :もちろん、道中の食事代を含め、必要経費は別途お支払いするつもりだ。
      宿は学院の客室を使っていただきたい。

フィーエル:あう。いい人?

トゥエリ :至れり尽くせりデスね。

アーガム :発症者は多くないが、放っておけば街が緩慢に滅亡するのでな。

フアナ  :……それを、自分の財布から出す……。

G   M:アーガムはカイルを睨みつけます。

カイル  :(直立不動で)も、申し訳ありません!

アーガム :……知っているのなら仕方がない。経理の長が支部長の派閥でな。

レイディア:ギルドの公金としては予算が下りない、と。

フアナ  :……そして……そこまでするほど息子が可愛い。

マリア  :……ありそうな話ではあるがのう。

アーガム :ギルドの誰一人として原因がわからんが、これを好機と割り切る他ないのだ。

レイディア:心中、お察し致します。

オルフ  :インスピレーションという、ラーダの信徒だけが使える魔法があるのですが。

アーガム :それも計算の上だが。

オルフ  :それを用いても、そのような病状を引き起こす病気はわかりませんでした。

アーガム :…………つまり、病気ではないと……?

トゥエリ :そのような毒物も無いようなんデスよ。

オルフ  :未知の病気か、あるいは、病気でもないかですね。例えば、呪いとか。

レイディア:例えば、朱頭病なら凶暴化はしますが、発熱はない筈なんですよね。

アーガム :我々も未知の病気の可能性は考えたが……。
      衛視が暴れていた発症者を捕縛しても、
      我々に引き渡される前に死んでおるのだ。

フアナ  :……寝込んでいる人を……何人か連れてきてずっと監視して……。

アーガム :発症した瞬間にいかなる病か判断するわけか。
      しかし、我々が、罪もない人間を理由もなく隔離するわけにはいかん。

フアナ  :……理由なんて、でっち上げればいい……目的のためなんだから。

アーガム :……でっち上げる……それはどういうことかな?

レイディア:なるほど。「凶暴化、死亡及び他者への感染の可能性を認め、
      当人及び周囲への危害を避けるため、隔離し、病気の治療のため、
      専門機関で手厚く保護するものである。協力されたし。」ってことね。

トゥエリ :嘘は言ってないデスね。

アーガム :……ううむ。お前も恐ろしい連中と一緒にいるものだな。

オルフ  :少なくとも、昔より楽しい思いをさせていただいていますね。

アーガム :……文献調査はしていたが、それにも限界があったのか……。

フアナ  :……やってもらえる?

アーガム :私の責任で実行できるか、上と掛け合ってみよう。

レイディア:ありがとうございます。

フアナ  :……時間が惜しいから……検死の後は、生きた患者と接触したい……。

アーガム :問題ない。神官同行ならば、向こうからすがり付いてくるであろう。

オルフ  :街の神殿に協力要請は?

アーガム :魔術師ギルドが支配しているわけではないがな。

オルフ  :それはそうでしょうね。

アーガム :率先して動いてくれておるが、病を癒せる司祭は限られておる。

レイディア:そもそも、司祭に治せるんですか?

アーガム :病として治せるから、未知の疫病と位置づけられたのだ。
      根本治療と原因究明で神殿とギルドの役割が分担された形になったが、
      ギルドの全員が知らない病では、原因究明のしようがない。

トゥエリ :では、毒や呪いという線は消えましたカ。

アーガム :ギルドの前で熱病の薬を販売しているのだが、それが効くようなのだ。

フアナ  :……ということは、火の精霊力に関わる病気……。

レイディア:わかりました。オーファンの学院の全学生の中で10番以内に入る、
      特待生のこの私が、何とか原因を究明して見せましょう。

アーガム :頼んだぞ。






一行は、犠牲者の死体検分のため、カイルを伴って学院の地下室へ行きます。






G   M:臨時の死体安置所なので、この部屋にあるのは1体のみです。
      20代、男性。目立った外傷はありません。
      他の部屋にある2体も、年齢や性別こそ異なりますが、
      死因に関しては同じだと思われます。

ディース :自分の首をかきむしった跡とかねーか?

G   M:ないです。

フアナ  :……センス・オーラ。

G   M:死んでいるので、何も感じません。

フアナ  :……アンデッドでも……なかったね……。

G   M:これ以上調べる人は、セージ技能でチェックを。
      (ころころ)死後1日が経過しています。
      それ以上は、誰も何もわかりません。

オルフ  :こうなったら、ディビネーションですね。

トゥエリ :神にお伺いを立てる、プリーストの特殊能力デスね。

オルフ  :応えていただけないことの方が、圧倒的に多いのですけどね。

レイディア:こうなったらオルフが頼りね。

オルフ  :では、お伺いを。「どのような病気が原因なのですか?」

G   M:神の声が聞こえます。「汝、惑わされることなかれ。」と。

オルフ  :感謝します。その内容を皆さんにお伝えしましょう。

フアナ  :……エルフは神を、信じない……。

レイディア:惑わされるなかれってことは、原因は病気じゃなかったの?

ディース :いや、病気を治す呪文で治ったんだろ?

トゥエリ :病気であるという大前提に立って、そこからの何かがおかしいと?

フィーエル:あうー。わかんない。エートもわかんないって。

マリア  :我も聞いたことがないぞ。

レイディア:とりあえず、生きた患者を診てからの判断ね。






一行は、身分証明のためにカイルを連れ、街に繰り出します。






G   M:相変わらず、鼠が目につきますね。

レイディア:(大声で)重篤な症状の方、寄進と引き換えに流れの神官が治しまーす。

オルフ  :レイディア君、お金を取るのですか!?

レイディア:こうしなきゃ、病人が殺到して踏み潰されるわよ。

オルフ  :しかしですね。弱者の窮状に付け込むような真似はですね。

レイディア:納得いかないんなら、もらったお金を犠牲者への給付にすればいいわ。

フアナ  :……受け取らないと……不審がられる……。

トゥエリ :普通の病気を治してもらうのでも、神殿への寄進は必要デスからね。

オルフ  :わかりました。しかし、できる限り安くお願いします。

レイディア:いや、ゆっくり診たいから、とりあえず1番高額をつけた人間にするわ。
      仮に群がってきた人の家族を全部治したところで、自己満足よ。

ディース :どうせ一般人だ。たいした額は払えねーよ。

G   M:(正解です。資産家は発病者がいても、お金に任せて神官を呼んでいるので。)

レイディア:お金で、症状が重い人間を選別するのよ。

フアナ  :……こっちも、病人との接触のリスクが……減らせる……。

G   M:声を聞きつけた住人が家屋から出てきます。

街の人A :神官様。こちらにお願いします。おいくらでしょう。

街の人B :ラーダの神官様! うちはラーダ信者です。こちらからお願いします。

街の人C :娘が病気なんです。お願いします。

マリア  :娘から治してやらぬか?

レイディア:いや、キュアー・ディジーズは1回失敗したら同じ対象にはもう使えない。
      達成値の上昇が必要になるだろうから、ここは温存よ。
      公平に、一番高く積んだ人にしましょう。

オルフ  :信者の方からではいけませんかね?

ディース :神官の思考回路なら仕方ねーか。(苦笑)

レイディア:こちらの神官様はお忙しいので、弱者救済の観点から、
      弱者のために最も多く寄進を積んで下さった方に奇跡を行使して下さいます。
      本来であれば、病める人全員に奇跡を行使したいのは山々ですけど……。

G   M:お金を取るのが常識ですので、普通に受け入れられますね。
      街の神官は、軒並み精神力が危ないですし。

街の人A :180ガメルくらいなら、家にあります。

街の人B :この宝石であれば、250は下らないでしょう。

街の人C :400でいかがでしょうか。

レイディア:(相場は4レベルで960だから……)500は要るわよ。もちろん現金で。

街の人B :現金で350ありますので、宝石を150と見積もっても500です。

レイディア:宝石の価値は?

G   M:冒険者なら鑑定不要です。少なく見積もっても200では売れますね。

レイディア:じゃあ、550か……。

街の人C :500までなら出せます!

マリア  :捨て置けん。我が100足してやろうぞ。

レイディア:そうきたか……。600より上はないですか? なければ決定です。

G   M:それで決定ですね。街の人Cは即金で支払います。

レイディア:(小声で)神官様。このお金を2人に。

オルフ  :なるほど……。300ずつお渡ししましょうか。

マリア  :うーむ。考えたのう。

オルフ  :ご期待に沿えず申し訳ありません。このお金で薬を買ってください。
      熱病の進行を抑える薬は学院の前で売っていますので。

G   M:AとBは、お礼を言いながら去っていきます。

ディース :体に気をつけろよー。

オルフ  :助かりましたよ、レイディア君。

レイディア:誰か1人しか助けられないのが前提条件なら、
      それを踏まえて作戦を考えるだけよ。

フアナ  :……悪魔の知恵。……同等以下の相手をいじるのは、レイディアのが上。

レイディア:軍師様にそう言ってもらえて、嬉しいわ。(えっへん)

G   M:では、C宅に案内されるわけですが、ついて行きますね?

レイディア:もちろんっす。

マリア  :早く治してやらねばな。

G   M:では、Cの娘の姿を見ます。20歳前後。ベッドに横たわって寝ていますね。

マリア  :……娘というので子供かと思っておったら……。

レイディア:だから、ああいう場面では私情に流されちゃいけないのよ。

ディース :かわいい? かわいい?

G   M:普通の顔です。

ディース :惜しかったなー。

レイディア:お前、ちょっと黙ってろ。

フアナ  :まずは……精霊を見る。

G   M:体内のサラマンダーの力が強いですね。
      明らかに、発熱を伴う病です。他は異常なし。

フアナ  :……凶暴化するのに……精神の精霊に異常がない……?

G   M:眠っているのでサンドマンの力は感じますが、通常です。

フアナ  :インフラビジョンは?

G   M:体温が平時より高い生命体で、人間型です。

フアナ  :………………まさか、ただの熱病?

G   M:病気について調べるには、起こして触れてみなければなりませんけど。

レイディア:接触だけで感染って可能性もあるわ。オルフにお願いしましょう。

オルフ  :心得ました。

G   M:では。起こして診察することになりました。
      服を着たままだと困難ですが……。

レイディア:神官以外の男は出てけ。

トゥエリ :当然といえば当然デスね。

ディース :残念だなー。

フィーエル:あう。早く、出て行こう。

カイル  :アーレン師、よろしくお願いします。

G   M:では、接触するのはオルフだけですね?

オルフ  :はい。とりあえずは。

G   M:主な症状は、発熱と関節のふくれですね。セージチェックを。

オルフ  :(ころころ)12しかないですね。

G   M:ラット・ディジーズだと断言できます。主に、鼠に咬まれてなる病気ですね。

オルフ  :らちがあきませんね。インスピレーションを。

G   M:使えません。知識ロールには成功していますから。

オルフ  :……紛うことなきラット・ディジーズですか?

G   M:間違いありません。深度は2です。

ディース :終わったかー? 入るぞー。

オルフ  :信じられないことに、ただのラット・ディジーズですね……。






ここで、ラット・ディジーズを知っているか全員が知識判定。
知名度が7しかないので、出目が悪かったディースとマリアも含め、
全員が成功です。さすがは全員セージ。






レイディア:はぁ?

フアナ  :………………。

トゥエリ :ハズレを引いたんでしょうカ?

ディース :どういうことになってるんだ?

フィーエル:あうー。わからない。

マリア  :鼠の病気か。蛮族共は不衛生であるのう。

オルフ  :とりあえず、治療しましょう。フアナ君、お願いします。

フアナ  :……シャーマンの特殊能力で、体内の精霊力を調整……。

G   M:これで判定に+1ですね。13以上で深度が1減ります。

オルフ  :キュアー・ディジーズ、全力の達成値+2で。
      (ころころ)出目6で成功。(ころころ)出目10。完治しました。

娘    :……あれ? ……体が急に……?

オルフ  :神の奇跡で病気は完治しましたが、しばらくは安静になさって下さい。

街の人C :おお! ありがとうございます!

オルフ  :あなたは、鼠に咬まれましたね?

娘    :はい、神官様。何日か前に、そこの壁からわらわらっと出てきて……。

トゥエリ :リノ、入れますネ?

リノ   :ぢゅっ!

G   M:リノは壁に入っていきます。感覚共有なので、トゥエリにも見えますね。
      進んでいくと、下水の壁から出ます。

トゥエリ :下水に通じてますヨ。これは鼠狩りデスかね?

G   M:どちらに進みますか?

トゥエリ :奥に決まってますヨ。

G   M:それは、水の流れる方向でわかりますね。
      進んでいくと、ときおり鼠とすれ違います。
      同じ方向に向かう鼠は見えません。
      近くですれ違うと「こいつ、でかくね?」みたいな顔をされますが、
      似たような生物で体が数段大きいですので、襲われませんね。
      そうしてどんどん進んでいくわけですが……
      リノの野生のカンで、これ以上進むと命がないと感じました。

トゥエリ :引き返させます!

G   M:リノが戻ってきました。

トゥエリ :ご苦労デス。

リノ   :……ぢゅっ!

トゥエリ :おそらく、下水に何かいますヨ。ただの鼠じゃない何かがネ。

オルフ  :また鼠に咬まれると同じ病気にかかるので、穴は塞いで下さい。

街の人C :わ、わかりました!

レイディア:まさか、鼠の使い魔が役に立つとはね。

トゥエリ :しかし、どういうことなんでしょうかネ……。





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