バトルのチュートリアル−20





G   M:時間は少し遡り、さくら幼稚園の建物内。昼なのに黒いカーテンが引かれた薄暗い部屋で、
      緑っぽい色の制服を着た10名ほどの男子園児たちが、靴を脱がされたはるひを取り囲んでいます。
      アメは手元にありますが、はるひの力では囲いを突破することはできないでしょうし、
      いくら足が速くても、裸足ではアスファルトの上ですぐに力尽きてしまうでしょう。

隊長アリ :……なんでこんなことに……。

働きアリA:ゆうとさん、しょくりょうとってきましたよ! どうですか!?

隊長アリ :ぼくが頼んだのは食べ物だったよね? な、なんで女の子なんかさらってくるのさ!?

働きアリA:すみません、ゆうとさん。

働きアリB:このおんなが、アメのありかをしってるっていうんで。

働きアリC:たおしてさらってきました。

隊長アリ :もう……ゆうづうがきかないのが弱点だな……。キミ、大丈夫だった?

はるひ  :だいじょうぶじゃありませんわ! なんてことしてくれますの!?

働きアリA:おめー、じぶんのたちばわかってんのか!?

G   M:さすがのはるひも、ようやく、自分の置かれた立場が理解できます。
      相手の方が圧倒的に優位なんですよね。ですから、機嫌を損ねると危なそうです。

はるひ  :……ご、ごめんなさい!

隊長アリ :やめてよ。怒るよ?

働きアリA:す、すみません!

G   M:1人だけ背が高い園児が声を発すると、背の低い園児は従います。
      1人だけ高いというか、周りが低いんですね。
      1人以外は、おそらく1年下の年中組(ねんちゅうぐみ)でしょう。
      その背の高い園児はかわいい顔をしてますが、腕っ節が強そうにも見えず、
      気も弱そうなのに、どうして周りの連中が従ってるのかは謎です。
      従ってるのが女の子ならまだわかりそうなもんですが、全員男ですし。
      仮に年功序列にせよ、もっと強そうな年長組の園児がいないとも考えにくいですし。

はるひ  :……アキラくんはどうしましたの?

隊長アリ :一緒にいたって子のことかな? どうしたの?

働きアリC:いっしょにいたおとこなら、すててきました。

はるひ  :(たよりにならない男ですのね……。)

G   M:とはいえ、これはいよいよ危険な状況だというのが理解できます。
      大人が手出しできない状況で、仲間がやられた上、女の子が自分1人だけさらわれたわけですから。
      どうもこの中に1人だけ偉いのがいるようですが、逆に言えば、
      そいつの命令次第では、何をされるかわからないということです。

はるひ  :ア、アメならいくらでもあげますから、ひどいことはしないでください……。

G   M:はるひは、泣きながら、ポケットの中からアメを取り出します。

はるひ  :このリーダーっぽい人に、ふところであっためてたトロピカルキャンディをあげますわ。

隊長アリ :……ぼくにくれるの?

はるひ  :このアメはとくべつですのよ。で、でも、べつにあなたにしかあげたことないわけじゃありませんのよ!

隊長アリ :ありがとう。さっそくいただくよ……甘くて、あったかい……。

はるひ  :べっ、べつに、あなたのためにあっためてたんじゃありませんのよ!?

働きアリB:……。

はるひ  :あなたもほしいんですの? 

働きアリB:う、うん。

はるひ  :はい。なかなおりのしるしですわ。ふつうのアメだけなら、いってくれればあげましたのに……。

働きアリB:……おいしい……。

G   M:まだもらってない園児も物欲しそうにしてますが、あげますか?

はるひ  :当たり前ですわ。このさい、プライドはすてますわ!
      ひどいことされないように、なきながらくばってまわりますわよ!

G   M:ああ、そうされると、簡単にだまされますね。
      この1人だけ偉い園児も、まさか、はるひが気の強い子だなんて想像もしないでしょう。

隊長アリ :きみみたいな優しい女の子、初めてだよ……。

はるひ  :そ、そうですの?

隊長アリ :でも、言っておかなきゃいけないことがあるんだ。悪いけど。

はるひ  :……なんですの?

隊長アリ :幼稚園のトップは、いろんなことを決められるんだ。例えば、きみをどうするかとか。

はるひ  :あ、あんまりひどいことはしないでくださる……?

隊長アリ :ぼくはしないけど、決めるのはぼくじゃないんだ。

はるひ  :あなたが一番えらいんじゃありませんの!?

隊長アリ :さくら幼稚園のトップは、コガネムシのキンダイチさんだ。

はるひ  :……たんていみたいな名前ですのね。虫がリーダーですの?

隊長アリ :キンダイチさんは怖い人だ。カブトムシのそうたさんだって全然敵わなかった。

はるひ  :こ、コガネムシがカブトムシより強いんですの……!?

隊長アリ :ぼくらはキンダイチさんには逆らえない。

はるひ  :そ……そんなに怖い人ですのね……。

隊長アリ :でも、キンダイチさんは自分のコマを欲しがってる。
      これから会ってもらうことになるだろうけど……
      何があっても、絶対にあの人に逆らっちゃいけないよ。絶対だよ。

はるひ  :……わ……わかりましたわ……。


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