ある日のゆり幼稚園





かすみ  :(あー、なんでこんなとこにいるんだ?)

G   M:ここは、総社市を二分する大きな川の川岸。
      その南地区側の岸辺で、大人用の白いYシャツを羽織った茶髪のボサボサ頭の女の子が、
      白いシガレットタイプのラムネをタバコのようにくわえつつ、ぼーっと立っています。

かすみ  :(大体、立地が悪すぎるだろ。どんだけ敵に囲まれてるんだ……。)

G   M:女の子が対岸に目を向けると、新撰組の羽織のようなものを身に着けた園児たちが、
      対岸にある幼稚園の園庭でたむろしているのが見えます。

かすみ  :(お揃いの特注制服とは、仲のよろしいこって……。)
      
G   M:彼女の背後、少し離れた位置に、ゆり幼稚園の建物があります。
      その建物の中では、野球好きの園児たちが野球談義を繰り広げているのでしょう。
      とはいえ、彼女は野球に興味がなく、野球好きの園児たちもそれぞれ好きな球団が違うため、
      まとまりというものに欠けます。ゆり幼稚園は、烏合の衆なのです。
      女の子は、口にくわえていたシガレットラムネをタバコのような手つきで持ち、
      大きく息を吐き出しました。そして、また元通りにくわえます。

かすみ  :(中央区の奴らがやばいのはわかってる。なんとかする方法もなくもない。
       けど、やる気が出ねえな……。)

G   M:川で隔てられた南区と中央区を結ぶ橋は、電車しか通れない鉄道橋を除けば、5本。
      その5本のうち4本、さらに鉄道橋までもが、彼女の所属するゆり幼稚園の領内を通っています。
      そのうちの2本の橋は、ゆり幼稚園とあすか幼稚園を結ぶ位置にあり、     
      お互いに攻める気があれば、すぐにでも攻め入ることができるような地理的状況にあります。
      この2つの橋をなんとか塞ぐことができれば、あすか幼稚園の領土から
      直接攻め入るのが難しくなるのですが……。

かすみ  :(ほんと、なんでこんなとこいるんだろうな? 野球の話されてもわからんし……。)

?    :……にゃー。

かすみ  :!?

G   M:女の子が辺りを見回すと、少し離れた位置に、一匹の黒い子猫が。
      子猫はそこから足元にすり寄ってきます。

子猫   :にゃー。

G   M:猫には、首輪など、人が飼っていたことを示す印は見当たりません。
      そして、疎開する過程で飼い猫が取り残されたにしては小奇麗ですね。
      あれから二週間経ってますので。なお、ここ数日、周辺で猫を見た記憶もありません。
      誰かがわざわざここに捨てていったとも考えにくいですが、
      足元にすり寄ってくる猫の質感は確かなもので、そして温かいです。
      黒い子猫は、寂しそうに身を寄せます。

子猫   :にゃー。

かすみ  :おまえも独りなのか?

子猫   :にゃー。

かすみ  :そうか。なら来い。

子猫   :にゃー。

G   M:女の子が差し出した両手に、子猫は滑り込みました。
      そして、女の子は子猫を優しく抱きかかえます。

かすみ  :よしよし。これから、おまえも家族になるんだ。

子猫   :にゃー。

かすみ  :……あいつら、猫は好きかな? 意外と話が合ったりしてな。はは。

子猫   :にゃー。

G   M:子猫を抱きかかえた女の子は、踵を返して、ゆり幼稚園の建物へと入っていきました。


ある虚言者の記録−13 へ
ある虚言者の記録−14 へ

トップページへ