ある虚言者の記録−13





『鯨』



世界で最も大きな生物は何でしょうか?
象と答える人も多いかもしれませんが、実はそうではありません。
正解は、鯨なのです。

魚のような外見をしているものの、鯨は魚ではありません。
人間と同じ、れっきとした哺乳類なのです。
それもその筈。鯨は元々は陸上で生活していたそうです。
それが海に生きる道を見つけ、今では水中に適応するあまり、
丘に帰れなくなってしまいました。

地上の生物は基本的に、進化が進むにつれて小型化する傾向にあります。
考えたくない話ですが、昆虫だって、恐竜の時代には巨大なサイズだったという話ですし。
ただ、巨大なままでいられるのは、敵に発見されることが死に繋がらず、
なおかつ巨体を維持できるほどのエサを確保できる、強い動物のみなのです。
それだけでなく、いくら強くとも同族との縄張り争いの末に滅びることのないよう、
エサを求めて縄張りを移動できる、柔軟な可動性を有している必要があります。

今や世界最大の生物となった鯨は、肉食のサメすら寄せ付けない、海の王者です。
確かに、海中では重力が緩和されるため、より多くの自重に耐えられるという側面もあるでしょう。
しかし、同じ海中にすら、最大の鯨であるシロナガスクジラより大きい生物は存在しません。
自分より大きい者に襲い掛からない性質を持つ肉食魚類すら押さえて、
海中の食物連鎖のひとつの頂点に立ち、大海を悠然と泳ぐ鯨を見ていると、
彼らが海に出たのは先見の明があったと思わざるをえません。

そう。鯨はとても賢いのです。



                    ――ある虚言者の記録


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