ある虚言者の記録−7





『正義』



正義とは何なのでしょうか。
それはきっと、正しいことを指すのでしょう。
では、一体何が正しいことなのでしょうか。

ここでは、神が正しいかそうでないかの話はひとまず置いておいて、
我々の住む下界における正しさとは何かを考えます。

法律は正しいものだから、法律を守ることこそ正しいと考える人もいるでしょう。
ですが、法律というのは、権力を持った為政者の都合で書き換えられるものです。
例えば、現存する独占禁止法などの経済法規がいい例で、時代によっては、私的独占は罪ではありませんでした。
ある市場を一手に握れば、値下げ競争に付き合う必要もありません。
むしろ、代替品がない商品であれば、いくらでも高く売りつけることが可能ですからね。
もちろん、それが許された時代というのは、私的独占をもたらした同業者組合や大商人の権力が強かった時代ですが。

勝てば官軍という言葉のように、強制力を持つ者こそ正しいと考える人もいるでしょう。
ですがやはり、悪法も法なのかという問題が生じます。
例えば、いかなるものでも、法律は守らないといけないのでしょうか?
例えば、革命で多くの血が流された後にできた法律は、正しいといえるのでしょうか?
それを守ることは、流血の肯定につながるのはないでしょうか?

法律以前に、守らなければいけない道徳こそ正しいと考える人もいるでしょう。
ですが、今度は道徳とは何かという問題になってしまいますから、
それは問いに問いで答えるに等しいことなのです。

法律が文章化される前から存在した、自然法というようなものが正しいと考える人もいるでしょう。
例えば、人を殺してはいけないとか、人の物を盗んではいけないとか、
ほぼ全ての法律に共通するような、最低限のルールとされるものです。
しかし、そのルールは、合法的に悪いことをしている人についても適用されるのでしょうか?
飢え死にしそうな人々を横目に食糧を独占している者から必要なだけ盗み、
飢えた人々に分け与えることはむしろ正義ではないのでしょうか?

ほら。何が正義なのか、わからなくなってきたでしょう?



                    ――ある虚言者の記録


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