事務官の飲み会−3





G   M:法務省の建物内の一室で、事務官2人の飲み会は続きます。

事務官A :……わからないのは、マコトさんの趣味だ。

事務官B :趣味か……そりゃ、何かプレゼントするとしたら、その辺だろうな……。

事務官A :休日は部屋にこもりっきりなんだよな。インドア派なんだろうが……。

事務官B :そりゃ、インドア派にならざるを得ん立場だろ……。

事務官A :そうかー。内田三等なんか、半泣きでリール回してるって噂だし。部屋で。

事務官B :うわぁ……引くわ……。

事務官A :釣りのゲームとかじゃ満足できないもんなんすかね。

事務官B :いっそ、部屋の風呂改造して釣り堀作れよ……。

事務官A :いくら三等でも、そこまでやったら更迭だって。やっぱゲームでしょ、そこは。

事務官B :ゲームといえば、あの堅物だが……。

事務官A :最初はマコトさんと同好の士だから気に入ったってのも考えたけど……。

事務官B :ないわ。絶対ないわ。(笑)

事務官A :俺もそう思う。(笑)

事務官B :あの人の趣味、誰も知らないんだよな。もし知ってるとしても、堅物くらいのもんかな?

事務官A :……あの女も知らないかな?

事務官B :小倉にもそれとなく聞いてみたけど、あの反応は全然知らないとみた。

事務官A :誰にも言えない趣味って何だろ……。

事務官B :気になるけど、深入りしない方がいいんじゃないか?

事務官A :いや、ヒントはあるんだ、ヒントは。

事務官B :ヒント?

事務官A :例のブログだよ。狩野派が抜け駆けよばわりしたやつ。

事務官B :趣味は内緒だっただろ、確か。

事務官A :でも、その後にヒントがあるんだよ。

事務官B :……どんなヒント?

事務官A :『変わった趣味なので、将来の選挙のときに個人が特定できちゃいますし。』って。

事務官B :そこまで覚えてるのか……引くわ……。

事務官A :いや、真面目な話。そこを読み取って、送別会のときに渡す物を決める!

事務官B :はいはい。将来の一等に媚を売りたいからってことにしとくわ。……完全防音だけど、念のため声抑えろよ。

事務官A :あ、すみません。……ま、協力してほしいんだわ、友達として。

事務官B :うーん……将来の選挙のときに特定できるってことは、言えない趣味じゃない。

事務官A :そこなんだよ。絶対に言えない趣味じゃないのに誰にも言わない。

事務官B :知ってるとして狩谷一等くらいか……。で、変わった趣味だって自覚はある。

事務官A :あと、ブログを見るに、漫画好きじゃないらしい。

事務官B :確かに、事務官の漫画の話が通じてないな。なおかつインドアな趣味……ゲームか読書?

事務官A :それは事務官の趣味としてはポピュラーすぎるし、官補にも多い。

事務官B :三等二等にもいるから、個人の特定まではできないってことか。

事務官A :この条件を全部満たす趣味って、ある?

事務官B :……内緒で仕事ってのはあるか? 最近、堅物に呼び出し食らい過ぎだろ。

事務官A :怒られてるわけはないし、異動がらみだよな。

事務官B :俺らにすら内緒のお話らしい。通信記録すら残したくないレベルの。

事務官A :でも、前からオフは1日中部屋にこもってるから、関係ない筈だけど。

事務官B :……先輩から1つ、教えてやろう。

事務官A :(声を落としつつ)お、お願いします!

事務官B :二等になる異動の前には、通例、現地視察がある。ま、実態は地元への顔見せを兼ねた旅行だ。

事務官A :……知ってます、一応、そのくらいなら。

事務官B :まあ聞け。厳しい出世競争を勝ち抜いた二等でも、人間だよな。

事務官A :そりゃそうです。

事務官B :休日も遠出せずに、馬車馬のように働いた三等執政官補付き事務官に報いるため、
      ほとんど外に出られなかった官補が、視察の時に何かするとしたら、何だ?

事務官A :…………お土産?

事務官B :そうだ、お土産だ。ただ、一人ひとりに別々のものってのはまずない。

事務官A :普通は事務官全員の好みを把握してないし、万が一論功問題になったら困りますからね。

事務官B :まんじゅうとかの消え物ってのも、まずない。

事務官A :二等になれた人からのプレゼントって、僕らには、勲章みたいなもんですからね。

事務官B :で……俺の経験上、みんな自分の基準で選ぶんだよ。自分の好みで。
      浮世離れしてる連中のことだから、古本とか紅茶とか、自分の家の骨董品って変り種もいたが……。

事務官A :なら、帰ってきたときに、もらったお土産の中身で……。

事務官B :そういうことだ。確実じゃないし、時間がないからこっちも近場での調達になるけどな。


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