日本国は衰退しました



はるか昔にローマの歴史家が遺した言葉の通り、歴史は繰り返す。
かつて世界帝国を築いたローマやスペインも、ヨーロッパで勢力を誇ったオーストリアも、
近年では、大英帝国とうたわれたイギリスも、そしてあのアメリカでさえも衰退した。
盛者必衰の理(ことわり)とは、昔の日本人もよく言ったものである。

かつて世界第2位の経済大国であった我が国も例外ではない。
日本は、21世紀初頭から持続していた不況により、
経済が混乱し、社会不安が増大し、治安が悪化するという、
近年の先進国にありがちな転落コースを辿った。

百年戦争時代のフランス然り、第一次大戦後のドイツ然り、窮した民衆は英雄を求める。強い指導者を求める。
しかし、目先のことしか考えない現代の民衆に、正しい指導者選びなど無理な相談だ。
よしんば正しい指導者を選べたところで、利害の一致しない連中が全力で邪魔をする。
かくして指導者たちは舵取りを誤り、あるいは反対勢力の抵抗を受け、幾多の改革は頓挫した。

そこで歴史の表舞台に立ったのが、官僚組織である。
彼らは時の総理に取り入り、官僚優位の法律を成立させた。
そして、総理に民衆が望む政策を助言し、強大な組織力と権力をもって自ら実行する。
たったそれだけのことで、総理大臣が次々に入れ替わる異常な時代は終わったのだ。

しかし、彼ら官僚の力をもってしても、21世紀初頭から続いた『失われた50年』を取り戻すには至っていない。
我が国が最後の輝きを見せたのが20世紀の終盤。
そこから約四半世紀までは死に体のままでなんとか持ちこたえていたが、結局のところ、
21世紀の半ばを迎えた今、この50年は『失われた50年』だったといわざるを得ない。
そのような沈みかけの船の上で。

彼らは、この国をどうしようというのか。

                    晩冬書房刊『失われた50年史』より

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