姿隠し





透明人間。
姿だけが透明になった人間である彼らは、実体を持ちながらも姿は見えず、誰にも邪魔されずに行動します。
そして、一方的に好きなことをできますが、誰も気付きません。だって、誰にも見えないのですから。
ある種身勝手なこの現象は、他者に対して一方的に何かをしたいという人間の幻想から生まれました。
もっとも、現実世界では、現代の科学技術をもってしても、完全な透明人間になることはできません。
壁を投影させてその後ろに隠れることもできますが、普段はあるはずのない壁なので、
風景を覚えている相手には通用しません。
もちろん、カメレオンのような科学的迷彩技術も存在しますが、やはり動くと見つかります。
結局のところ、人間に可能な透明化は、顔に色を塗って茂みに潜んでいた時代と、
たいして変わっていないのです。



『姿隠し(カメレオン・ベール)』



はたひびきが使用する、情報系レベル6の夜想曲(ノクターン)です。
周囲の背景色に完全に同化し、発見されることを防ぎます。
また、能力を発現したままで歩くこともでき、
移動の間に周囲の景色が大きく変わった場合でも影響を受けません。
さらに、直接手をつないだ人間にも、効力を及ぼすことができます。



もっとも、物理的・精神的な衝撃を受ければ能力が途切れますし、
精神集中の継続が必要なので、消えたまま戦うことができません。
そして、一度認識されてしまえば、いったん相手の視界から消えるまで、
完全には消えることはできません。能力を発動させたところで、
輪郭がぼやけて見えるとか、せいぜいその程度です。
また、音や匂いを消す能力ではありませんので、そこから気付かれる可能性もあります。
さらに、姿は消せても能力者の実体はあるため罠にかかる可能性もありますし、
視覚以外、例えば視覚に頼らない感知系の能力はごまかせません。



結局のところ、この能力は視覚だけをごまかす能力、ということになります。
一見しただけでは微妙な能力のように思えますが、人間はまず視覚に頼ります。
私のような視覚系の能力者でなくとも、です。
ですので、諜報活動はもちろん、その気になれば不意打ちにも使えます。
並みの見張りでは、すぐ横を通り抜けられたことすら気付かないでしょうから。
本拠地で安心していたつもりが、気付けば敵に囲まれている。
そんなことのないように、見えないものにも目を配る采配が必要になりそうですね。


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