第5話・第4節・タイトル未定






G   M:あやめ幼稚園のアジトの喫茶店で、少し早めの夕食をとりながら、会議が始まります。

リナ   :皆、お疲れ様。ヒビキの能力を完全に理解してなかったのは私のミスよ。ごめんなさい。

ゆうすけ :いや、俺も悪い。すまなかった。

ライム  :仕方ないよ。中々面白かったし。

ヒビキ  :せっしゃ自身、よく知らなかったでござる。

はるひ  :あの時、部屋に何かいるような気がしたら、ふつうに見えてましたわよ。

ゆうすけ :幻覚の類は、強く疑われると解ける可能性が出てくるってことみたいだな。

ライム  :姿が見えない敵を疑う状況自体、そんなに多くはないんだけどね。

ヒビキ  :今までは目の前を横切っても、気付かれたことはないのでござるが……。

ゆうすけ :「何かいるかも」程度の認識だと、大丈夫ってことみたいだな。

リナ   :でも、2人のお陰で敵の能力がわかったわ。

ゆうすけ :おそらくは、染色、眠り防止、無生物の探知、あたりだろう。

ライム  :なかなかスパイらしくなってきたね。

リナ   :皆、自分が知ってることでも、相手が知ってるとは限らないわ。
      これからは、そういう前提で話して。記者の基本よ。

ケン   :ちょ、記者っすか。(笑)

リナ   :(無視して)で、手形の件だけど、れいめいにあったものと、黒点領の壁にあったものは、
      同じ犯人の仕業と考えていいわけ?

ケイジ  :我(われ)が寝床を後にするときに見たアレか……。

ゆうすけ :あれは本物の血じゃなくて、塗料だ。本物だと、変色してもっと黒くなるからな。

ましろ  :とすると、我輩(わがはい)たちが交換した『血のり』ではないのか?

ゆうすけ :交換!?

ケイジ  :我らの城は、おもちゃ屋だ。色々なおもちゃが置いてある。

ましろ  :2人の旅人が、我らのオモチャと、どんぐりとの交換を持ちかけてきた。

ヒビキ  :どんぐりでござるか……。

はるひ  :どんぐりならしかたないですわね。

アキラ  :……。 ←目を閉じて頷く。

ゆうすけ :(子供かっ!!? いや、子供だったな……。)

リナ   :ちょっと! その2人って、この2人!?

G   M:リナは、制服のポケットに入れていた封筒から、
      1枚の写真を慎重に探って取り出し、皆に見せました。
      写真には、カメラ目線で左右対称のポーズを取る双子が写っています。

ましろ  :そいつらだ!

ケイジ  :うむ。間違いないぞ。我ら吸血鬼といえど、相手がドッペルゲンガーとあっては仕方ない。

はるひ  :……?

リナ   :やっぱりね。うちにも来て、制服を交換したわ。

ゆうすけ :あやめ園児によその制服着てる奴がいたのは、そういうことだったのか……。

ライム  :ぼくは関わってないけど、おそらく、さくらとみどりの制服も。

ケン   :そういや、さくらが緑色でみどりが桜色ってのは、おかしいっすよね。

ヒビキ  :そういうカラクリでござったか……。

はるひ  :つまり、わたしがピンクのせいふくを手に入れられるかも、ってことですわね!

アキラ  :……。 ←目を閉じて腕を組み、明後日の方向を向いて頷いている。

リョウ  :論点はそこじゃないアル。

リナ   :つまり、あの不気味な手形に、黒点領は直接関わっていないってことね。

ケイジ  :間違いない。我らは同胞と2人だけだからな。

リナ   :本人の仕業でもない、本人が誰かを動かしたわけでもない……。

ゆうすけ :まさかとは思うが、第三者のイタズラと考えるしかなさそうだな。

ライム  :もっともだね。

リナ   :そうね。あの2人ならやりかねない。冷静に考えれば、他にないわ。

ゆうすけ :血のりは結構な量を交換したんだろうけど、塗料なら薄めて使うことも可能だしな。

ケン   :ってことは、中の字もそいつらの仕業っすね!!

ゆうすけ :いや、違う。交換だ。

リナ   :……確かにあり得るわね。現に、制服は元々よそのだったのも交換に出してきたわ。

はるひ  :なら、だれのしわざですの?

ゆうすけ :それは、2人が持ち帰ってくれたメッセージにヒントがある。

G   M:印象的だったので、ライムがちゃんと覚えています。
      『こいつらとおなじめにあいたくなかったら これいじょうすすまないことだ』
      という文でした。

ケイジ  :たったこれだけで、何が分かるというのだ?

ゆうすけ :いや、今までの状況からの総合だ。
      まず、ああいう状況で壁にこういう文があったら、普通はびびるだろう。
      もしかすると、詳しく調べないかもしれない。

ましろ  :我輩は、こわくないぞ。

はるひ  :おばけじゃないってわかってたら、こわくなんてありませんわ!

ゆうすけ :でも、外壁の手形は、俺らが調べた黒点領のものと同一犯である可能性が高い。
      たまたま近づいた黒点領で手形を詳しく調べられると、れいめいのも偽装だってばれやすいから、
      れいめいの手形は裏目に出たかたちだ。つまり、れいめいの手形と文字は別人の仕業だろう。

ヒビキ  :なるほど。おくが深いでござるな。

ゆうすけ :俺も、最初はれいめいの中と外が同一犯だって考えてたからな。
      で、外がまず間違いなく偽装だってわかってたから、中のも最初から疑うことができた。

リナ   :人生どうなるか、わからない物ね。

ゆうすけ :外に余計な手形さえなければ、完璧に近い偽装だった。
      誰がれいめいの人間を消したにせよ、この状況で食糧を無駄にするとは考えにくいから、
      何かとてつもないものの仕業と考えるのも無理はないからな。

はるひ  :ぎゃくに、人間のしわざでしたのね。

ケイジ  :もったいないことをする人間がいるものだな。

ゆうすけ :ここまで来れば、後はなんとかなる。あの字が人間の仕業だとして、
      『これいじょうすすまないことだ』っていうのは、具体的にはどこに進むなってことになる?

はるひ  :おばけのせかい、じゃないんですわよね?

ましろ  :前に、だろう。バカな我輩にもわかるぞ。

リョウ  :具体的に、ネ。

ヒビキ  :むむ……むずかしいでござるな……。

ライム  :……どこかを指してるとすれば、見た相手がどこから来たかわかってないといけない。

リナ   :ということは、最初から隅にいた人間ね! つまり、犯人は……

ゆうすけ :れいめいだ。そして、それより進んだところに、奴らの拠点がある。

アキラ  :……!

ケン   :マジっすか!?

ケイジ  :だが、地図の表示はここまでだぞ。

リナ   :シェマハ、地図の外に行っちゃいけないって決まりはある?

G   M:声に応じて、机の上に置かれていたリナのリトルグラフから、
      望遠鏡を持ち、ラッパをかついだネズミの立体映像が現れます。

シェマハ :ないでやんす! 市内だったら、地図の外でもオーケーでやんす!

リナ   :れいめい幼稚園から南西の市内に、拠点に使えそうな建物は?

シェマハ :温泉保養施設『アクアハウス』があるでやんす。

G   M:名前を聞けば、全員分かります。
      プールと温泉が楽しめる、市営のレジャー施設ですね。
      小規模なホテルも併設されていますから、拠点にするには十分な規模です。
      ただ、食糧が搬入される場所ではないはずですが。

ゆうすけ :逃げる前に、れいめい傘下のコンビニから、食糧をごっそり持っていったんだな。

ましろ  :そんな状況で食糧の無駄遣いとは、変わった作戦だな。

リョウ  :無駄にした食糧で安全を買う発想だったなんて、お手上げネ。

ゆうすけ :ああ。ましてや、無駄にされたのは保存食だからな。
      俺らの常識だと、被害者が犯人だなんて考えもしない。
      そして、周りは敵だらけの状況で、誰がやったかわからなきゃ、
      頭がいい奴ほど誰がどうやってやったかを考えるからな。

ライム  :……これ考えたれいめいって、頭いいよね?

ゆうすけ :ああ。みんなの力を合わせて、ようやく謎が解けたくらいだからな。

アキラ  :……。

ケン   :しかも、手形の助けまで借りちゃったっすよねー。

リナ   :で、これを解けるレベルの幼稚園なら、もちろん、
      これを考えたれいめいが悪質なワナを張ってる可能性は考えるってわけね。

ヒビキ  :八方ふさがりでござるか……。

ゆうすけ :いや、これほどの頭脳を持ちながら逃げ回ってる相手だ。
      おそらく、戦闘能力は低い。それに、こいつらが他の傘下に入ったら最悪だ。
      ここは敢えて、今すぐれいめいの本拠地を攻めるのを提案する!


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