第5話・第1節
浅丘 :あー……きもちいー……気持ちよすぎてバカになりそー……。
G M:ここは、総社市の南端。れいめい幼稚園の領外の山中にある、温泉保養施設『アクアハウス』。
元々は、プールと温泉が楽しめる、市民の憩いの場でした。
プールで運動して、その後で温泉に入るというのが一般的な利用パターンです。
郊外だけに、もちろん大駐車場完備。小規模ながら、食堂やホテルも併設されています。
しかし、現在は、プールや温泉で疲れを癒そうという一般市民もいません。
今では、戦いを逃れるために移り住んだ、れいめい幼稚園の拠点と化しています。
その貸切状態になった『アクアハウス』の男湯。大浴場で、打たせ湯だの電気風呂だの色々ある中から、
よりによって熱めのお湯の湯船を選んでつかる園児が1人。
湯船の縁に頭ごともたれつつ、完全なリラックス状態といった感じで足を伸ばしています。
浅丘 :あー……極楽極楽……もうバカになっちゃっていーや……。
G M:その男湯の大浴場の扉を開けて、1人の女の子が入ってきます。
長い黒髪を後ろでアップにしている、知的そうなメガネの女の子です。
入浴目的ではないので、ちゃんと服は着ていますね。
女の子は、浅丘のいるところまで声が届くように、大きく息を吸い込みました。
伊庭(いにわ):浅丘さん。バカなこと言ってないで、ちゃんとしてください。リーダーでしょう!?
浅丘 :もう。ボク、ちゃんとしてるっすよ?
G M:浅丘と呼ばれたリーダーは、そのままの姿勢で答えます。
ほぼ無人の大浴場で声が反響して大きくなることも計算して、
相手に聞こえる程度の大きさの声で話しています。
伊庭 :延々とお風呂に入ってることの、どこがちゃんとしてるんですか?
浅丘 :どうせみんな戦うだろうから、ここが一番安全っすよ。
伊庭 :食糧も、このペースだと、1ヶ月くらいしか持ちませんよ?
浅丘 :ま、1ヶ月以内にはなんとかなるっしょ?
伊庭 :まさか、敵に見つかる前にめいっぱい気持ちいい思いしとくつもりじゃないでしょうね?
浅丘 :……。
伊庭 :否定してくださいよっ!
浅丘 :対策はちゃんとやってるっしょ?
伊庭 :それはそうですけど……。
浅丘 :……伊庭さん、もう1回だけ確認させてほしいんすけど。
伊庭 :……なんですか?
浅丘 :田崎執政官代理って、どんな人でした?
伊庭 :またその話ですか? それに、浅丘さんも一緒に見たでしょう。
浅丘 :どんな人でした?
伊庭 :……口で説明するのは難しいんですが……とても真面目そうな男の子でしたけど……。
浅丘 :それがボクが引きこもった理由っす。
伊庭 :は?
浅丘 :とにかく、あの執政官代理には関わっちゃいけない、絶対に。それは確かっす。
伊庭 :……浅丘さんが言うなら、そうなんでしょうけど……。
浅丘 :……で、なんか伝えに来たんっしょ?
伊庭 :……私は御用聞きじゃありませんからね?
浅丘 :頼りにしてるんだよ? ボク、1人っ子だから、お姉ちゃんができたみたいで嬉しいな。
伊庭 :ご、ごまかさないでくださいっ!
浅丘 :ほんとだよ。……今、赤くなってない?
伊庭 :本城(ほんじょう)みたいなのと一緒にしないでくださいっ!
浅丘 :なんで合わないかなー? お嬢様同士、気が合いそうなもんなのに。
伊庭 :……その本城から伝言です。「『リバーシ』しませんか〜?」だそうです。
浅丘 :におも同じくらい強いのにねー?
伊庭 :自分だけ名前で呼ばないで下さい! あと、あなたの方が強いでしょ!
浅丘 :そうかなー? そんなに変わらないと思うけどなー。
伊庭 :あと、本城はあなたじゃなきゃダメだそうです。
浅丘 :ボク、人気者? ……もうちょっとしたら行くって言っといて、にお。
伊庭 :まったく……どうしてあなたみたいな人が……。
浅丘 :ひょっとして、ヤキモチ?
伊庭 :違いますっ!
浅丘 :他のみんなは、いつも通りかな?
伊庭 :……はい。田沼は「そろそろ攻めに出ようぜ!」だそうです。
浅丘 :あはは。物まね? 似てる似てる!
伊庭 :あなたがやれって言ったんでしょう!
浅丘 :もう。冗談だよ。
伊庭 :……それと、春野はいつも通り昼寝中です。
浅丘 :あはは。まゆはやっぱりまゆっすね。
伊庭 :本城は外でタオル持って立ってるでしょうから、ある程度で出てくださいね。
浅丘 :におは優しいね。
伊庭 :あなたがマイペースすぎるんですっ!
浅丘 :……いいこと考えた!
伊庭 :一応聞いておきましょう。
浅丘 :ゆうなに、ここでリバーシしないか聞いてきて。2人とも裸だったら、恥ずかしくないからさ。
伊庭 :あの子を卒倒させる気ですかっ!? いい加減にしてください!!
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