第126話・禿物語



みつばたちは、天の箱舟から落ち、地上の村へと流れ着いたようだ……。
もっとも、サンディは飛べるのだが。
そして、みつばは倒れている。



サンディ
「え〜、なに? なに? みつば……!
 ま、まさか、死んじゃったの? てか、天使なんだから、これくらいで死なないよね……?」



そこは、いつか見た景色、ナザム村。
いつか話した少年が、みつばを介抱していた。



サンディ
「こうなったら!」



みつばにぶつかるサンディ。
サンディの姿は人間には見えないので、みつばが動いたようにみえる。



少年
「この人、すごいケガしてるけど、生きてるよ!」



それに引き換え、むこうはぜんぜんケガなかったわけだ。
こちらの動きを封じられるんだから、もうすげえはげしく攻撃したりないで、
ケガないようにしてくれてもよかったのに……。
意識さえあれば、起伏の無いぴかぴかの床でつるつる滑って落ちることもなかったはずだ。
第一、剣で攻撃しなくても、はげしくまぶしい光を放ってこちらの目をくらませるとか、手はあったはずだ。
しかも、人がせっかくはげんで集めた女神の果実まで。
抜けがけで自分の手柄にするんならまだしも、あんな悪そうな奴らの味方になるとは。
オークログロなボディの闇竜とか、絶対悪いヤツじゃないか。
まばゆいばかりに光属性の人だと信じてたのに……。
あの闇竜、この上ないくもうとするにふさわしくない相手のはずだ。
しかも、傍らにはゲルニック将軍とかいう悪そうな魔物までいたし。
地上で行方不明になった後も、波平の頭頂部のごとく孤軍奮闘してると信じてたのに。
天使でありながら魔物の味方とは、心臓には毛が生えているとしか思えない図太さだ。
そういえば、ずっと昔から、天使界の頂点でフサフサ生い茂っていたという世界樹。
そこに女神の果実が生えてきたときの異変を目の当たりにしたとき、彼もそこにいた。
あのとき、だまされたと感じた長老オムイ同様、彼も、カミに見放されたと思ったのだろうか。
そして、まだ見ぬカミのもとから抜け、あんな悪そうな奴らのところへ。
天使としての輝かしい実績すら、もうこんなものなんて要らないと、すべて捨てて。
だとしたら、なんと不毛なことだろう。
たとえ、心なしかつらさを感じていたとしてもだ。
そして、根は明るいと思っていた彼が、もうこんな決断をするほどにまで傷ついていたなんて。
彼へはケアが必要だったのか。悩み無用だと教えてあげないといけなかったのか。
あの時は、はげます時間すらなく、地上に落とされてしまったが……。
光り輝くまぶしい師匠だと思ってたのに、裏切ってしまうなんて。
なんていうか、太陽のような存在だとすらうすうす思っていたのに。
姿を消したエルギオスを信じるいとけないやつだと思ってたのに、
こんなにもつかみどころのないやつだったとは。
カミを信じ、正義を愛した記憶は、彼の心の中から抜け落ちてしまったというのか。
それはもうすげえ素早さが低いとはいっても、
天使界の事情に明るい上、剣の腕ならピカイチだと思ってたのに、
ピカピカの一年生天使を裏切って、生え抜きが移籍しやがって。
この酷い裏切りにはげんめつした。このうっすらパーが。
彼が、こちらに向かって毛を抜いて……もとい剣を抜いて襲い掛かってきて、
女神の果実を天使界に持っていく毛が……もとい気がないと気付いたときは、
ショックで頭の外が……もとい中が空っぽになってしまった。
彼は、将来を植毛……もとい嘱望された天使。
裏切る毛生え……もとい気配なんてなかったから、
なんの毛無しに……もとい、何の気なしに渡したのに。
あの時、足は床に毛が……もとい、根が生えたように動かなかった。
動けなくしてから攻撃してくるなんて、薄毛たない……もとい、薄汚いヤツだ。
カミは死んだ。
あのケナシコウルペ皇、もうこんど会ったらはげしくお仕置きしてやる。
それはもうすげえはげしいお仕置きを。高級アイスクリームも一生抜きだ。
あんな悪そうな帝国と毛……もとい手を組むなんて。
手加減する毛……もとい、する気なんて毛頭ない。とくと思い知らせてやるからな。
つるつるに仕上げ……もとい、つるし上げてやるから、覚悟しておけよ。




さて、十分にけなしたところで……。
少年は意識のないみつばを助けようと呼びかけるが、他の村人はガン無視。
てめえら、覚えてろよ……。



サンディ
「ずっと寝てるんですケド……。どうしたの? みたいな。 てか、起きて!」



気がつくと、ベッドに横たわっていた。



サンディ
「やっと起きてくれたわね。ちょーあせったよ。ふう……よかった……。
 ! ……って、安心してる場合じゃないんですケド!
 あんたの師匠さんとやらが、黒いドラゴンに乗って、女神の果実をどこかへ持って行っちゃったのよ!!
 それって、ヤバくね? あの黒いドラゴンを、早く追いかけなきゃだよ!」



願いを叶える女神の果実を7個も……。
あいつ、そんなに気にしてたのか……。




サンディ
「ホラ、起きて起きて!!」



みつばが起き上がると、助けてくれた少年が気付く。
少年は、ティルと名乗った。



ティル
「ついさっきのことだけど、おっかない黒いドラゴンが、村の上を飛んでいったんだ。
 その後、みつばさんが村の川のところに流れ着いていたのを、ボクが見つけたの。」



よく落ちて、よく村に流れ着く天使だなオイ。
そこに、村長がやってきた。



村長
「ケガが治ったのなら、夜に教会に来い。おぬしにも、話を聞かせてもらうぞ。」



村長とティルの話を聞いたところ、ティルは、この村では肩身が狭い様子。



村長
「いいな? 夜に教会に来るのだ。それまでは、この村に留まることを許してやる。」



だが、みつばがそんなこと聞くはずもない。
村を出て多少の素材集めの後、ルーラでダーマへ。



サンディ
「あんた、今日もおしゃれしてるよね。
 おしゃれしてれば、魔物が見とれたりして、戦いが有利になるっていうしね〜?」



全く何も装備してませんが、何か?
こいつ、テキトーに言ってやがるな。ファッションセンスのカケラもありゃしねぇ……。

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