ヤミの声








G   M:3日目。場所は、次の襲撃場所の村からやや離れた、野盗団の本隊。
      5台並んだ幌付き荷馬車のうち、前から2番目の、
      最も年季の入った馬車の荷台の中。
      片目に眼帯をした盗賊風の男と、ダークエルフの男が会話しています。

イングィー:何の用っすか、ボス。

マシェンス:昨日からソリッシュと連絡とれねーんだけど?

イングィー:坊ちゃん探しに夢中なんじゃないっすかね?

マシェンス:返事くらいくれてもいいだろうよお。声聞きてーし。

イングィー:(顔色を伺いながら)……でも、わざと連絡ポカすとか。

マシェンス:お前と一緒にすんなって。

イングィー:どっかで護符落とした、とかっすか?

マシェンス:それだったら魔法で見つけるだろーがよ。

イングィー:そ、そうじゃなくて、先に誰かに回収されたとか……。

マシェンス:それだったら魔法で戻って直接連絡するだろーがよ。

イングィー:(顔色を伺いながら)……まさか……。

マシェンス:言ってみろ。怒らねーからよ。

イングィー:(顔色を伺いながら)……捕まったりとかは、ないっすよね?

マシェンス:それがねーからあいつに任せたんだろーがよぉ。

イングィー:そ、そうっすよね。

マシェンス:いや、おかしいっちゃおかしいんだよ。連絡ねー時点で。

イングィー:でも、連絡ないってことは……。

マシェンス:言ってみろって。お前には期待してるんだからよ。

イングィー:結局、ソルさんは魔法と護符が使えない状況にあるわけっすよね。

マシェンス:……あー、そうなるな。お前、賢いじゃん。

イングィー:だとしたら、やっぱやばくないっすか?

マシェンス:(冷たい目で)あいつが殺されるか捕まるかしてる、って言いてーの?

イングィー:(怯えながら)……ほ、他に魔法も護符も使えない状況って……。

マシェンス:仮に騎士団と鉢合わせたとして、一旦逃げて連絡しねーか?

イングィー:(顔色を伺いながら)不意打ちだったら……。

マシェンス:誰が不意打ちすんだよ。ぱっと見、ただの旅人だろうがよ、あいつ。

イングィー:そうっすよね。騎士が目についたから捕まえた、とかないっすよね。

マシェンス:仮に捕まったとして、拷問されるくらいなら、舌噛んで死ぬっつーの。

イングィー:そうっすよね。ソルさんなら安心っすよね。

マシェンス:死んでも俺が生き返らせてやるしな。

イングィー:……死体無しでも生き返るって話、マジなんすか?

マシェンス:マジマジ。ファラリス舐めんなって。

イングィー:元の死体って、どうなるんすかね?

マシェンス:知らねーよ。いちいちくだらねーことに興味持ってんじゃねぇ。

イングィー:すみません。……で、サイルさんの調子はどうっすか?

マシェンス:いつも通り。で、ラッキーなことに、お前に分け前プラスのチャンス到来。

イングィー:サイルさんとこ、かませてくれるんすかっ!?

マシェンス:いや、別件。ひとっ走り行って、ソルの馬鹿連れ戻して来い。

イングィー:お、オレがっすか!?

マシェンス:元々お前の仕事だったろうがよぉ。

イングィー:遠いからソルさんが代わってくれたんじゃないっすかー。

マシェンス:馬貸してやるから。そんな遠くねーだろーがよ。

イングィー:なんかあったかもしれねーし、魔法使えない俺だと危なくないっすか?

マシェンス:お前さっき俺に安心って言ったろ。

イングィー:確かに言ったっすけど、マジやばくないっすか?

マシェンス:やばくねーよ。仮に死んだとして、何回も生き返れるんだからよ。

イングィー:でも、そんなんで上乗せもらったら、現場がいい顔しないっすよ。

マシェンス:なら、俺の分け前全部やる。文句言う奴は連れて来い。

イングィー:そっ、そんなに貰えるんすかっ!? 服汚さずに!?

マシェンス:幹部っつーのはそんなもんだ。嫌ならまた平に戻れや。他に任せるからよ。

イングィー:いやいや、嫌じゃないっすよ!! オレにやらせてください!

マシェンス:おっ、やっぱ話わかるじゃん。

イングィー:で、どこまで行ったらいいんすかね?

マシェンス:この前稼いだ街あったろ、街道から北んとこ。

イングィー:騎士殺した次んとこっすね。

マシェンス:あそこから東の道に向かう途中で、連絡が途絶えた。

イングィー:あの街の東、ってことっすよね。

マシェンス:そうだ。で、あそこまで道沿いに逆戻りしろ。

イングィー:探すのは、例の地点付近からでいいっすか?

マシェンス:それでいい。倒れてないか中心に探せ。異状はすぐ連絡しろ。

イングィー:わかったっす。坊ちゃんはどうします?

マシェンス:馬鹿息子はソルが見つかってからだ。

イングィー:了解っす。でも、俺、人相悪いっすよね。顔見られたらどうします?

マシェンス:フードでも被ってろ。気になったら殺せ。とっとと行ってこい!

イングィー:(走り出しつつ)わかったっす!

マシェンス:ダッシュで行ってこいよ、ダッシュで。

G   M:数分後、手下の1人が、馬車の外からマシェンスに呼びかけます。

手下A  :ボス、お話があります。

マシェンス:イングィー、行ったか?

手下A  :はい。それで、一番後ろの馬車の馬に乗って行ったんですけど……。

マシェンス:俺が許した。問題ねーだろ?

手下A  :はい。すぐ帰ってくるんですよね?

マシェンス:あー。ちょっとばかし長いかもしれねーなー。

手下A  :は、はい。……それなら、決行の後の移動は、どうしますか?

マシェンス:いんや、今から北東に動く。

手下A  :今からですか!? サイル様のところの荷物はどうなさるんですか!?

マシェンス:絞らす。いつもみたいにゴミ捨てさしゃいいって。

手下A  :はい。ですけど、北東にはほとんど何も……。

マシェンス:お前ら馬車連れて南な。次の峠越えたら、馬車捨てて戻ってこい。

手下A  :……はい。ですけど、馬車、捨てるんですか?

マシェンス:お前のじゃねーだろーが。後で拾やーいいだろ拾やー。文句あんのか?

手下A  :……いいえ、ないです。わかりました。

マシェンス:後ろのなら、1匹で余裕だろ。気の合いそうなの4人連れて、行ってこい。

手下A  :わかりました。……危険は、ないですよね?

マシェンス:ねーよそんなもん。俺らゆっくり歩くから、とっとと行け。

手下A  :はい!





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