貸しの継承者
G M:とある町外れにある城。
執務机に両肘を置いた初老の老人が、机の前に立つぼさぼさ頭の若者に、
冷ややかな視線を向けています。
ベブリス :で、1人で逃げ帰ってきた、と。
ロベール :敵は、精霊魔法と暗黒魔法の双方に熟練した、ダークエルフの一団です。
ベブリス :逃げるには相手に気付かれる前しかない、と。君の意見はもっともだね。
ロベール :発見と同時に隊長が退却命令を出しましたので、率先して実行しました。
ベブリス :あのね。子供の使いじゃないんだからさ、隊長が命令無視されましたってね、
平然と言われても困るんだけどね。
挙句の果てには、やられた部下を見捨ててとっとと逃げるわ。
キミも昔は将軍代行だったわけだしさ、その辺りはどうなってるわけよ?
ロベール :昔の所属は関係ありませんし、指揮は将の安全が前提です。
それに、今回は全ての駒が相手の魔法で足を封じられました。
ジェドとタンザすら、一太刀も浴びせられずに死にました。
ベブリス :……あのジェドが……にわかに信じられない話だけど。
ロベール :元々、戦力が違いすぎたんです。
ベブリス :まったく、天のお父上がどれだけお嘆きのことか……。
とにかく、責任は取ってもらうよ。キミ、無期限休暇ね。
もうね、帰ってこなくていいからね。どこへでも行っちゃって頂戴。
ロベール :今までお世話になりました。ついでに、元気な馬を一頭お貸し頂けますか?
ベブリス :一班全滅ってさ、後処理色々と大変なわけよ。この上まだ何かあるわけ?
ロベール :七年前にも、いくつかの小村が皆殺しということがありましたよね。
ベブリス :……そんな前になるかね。食うに困った山賊の仕業だったんでしょ?
ロベール :今回の件と手口が酷似しているようでして。これをご覧下さい。
G M:ロベールが取り出した地図を、ベブリスが面倒臭そうに眺めます。
ロベール :丸印が七年前、バツ印が今回の被害場所です。
ベブリス :……へぇ、足が速いだけじゃないんだね。
ロベール :被害場所の共通点は、人口百人以下クラスの町村であること、
他と大きな道で繋がっていること、大規模な治安機関から遠いことです。
つまり、頭の回るリーダーに指揮された、
凶悪な盗賊団である可能性があります。
ベブリス :……仮にそうだとして。なら、七年間何やってたわけ?
ロベール :おそらく、他国で同じようなことを。
G M:執務机の老人が、右手に頭を乗せ、大きく息を吐きます。
ベブリス :でもね、これ失態なわけよ。
その辺の山賊が捕まって、吐いてくれるのが一番楽なわけ。
ロベール :はい。賊はそうして生き延びてきたのかもしれません。
ベブリス :しかしね、家柄のせいであんなだったけど、ジェドは強かったよ。
あれが一太刀も、となると、国軍大隊規模でいくつか動かすしかないでしょ。
キミ動かせるわけ?
ロベール :動かせません。
なまじ騎士が強いだけに、どこも自領で解決しようとするでしょう。
G M:老人は、頭を左手の上に置き換えます。
ベブリス :だいたいさ、そいつらをどうこうしたいって口ぶりだけどね、できるわけ?
ロベール :敵の進行方向を計算すると、かなりの確率で叔父の領を通過します。
ベブリス :そうねえ。キミの進言なら彼も動くかもねえ。いい家に生まれたよ。
ロベール :ありがとうございます。あとですね……計算にズレが生じるといけないので、
賊の情報はご内密にお願いしたいのですが。
ベブリス :いいよ。キミの言う通りなら今この辺りにいるわけでしょ?
もう端じゃない。……そういえばさ、どうやって進路を断定できるわけ?
ロベール :断定ではなく推定です。無警戒の村を囲って襲っているであろうことと、
騎士との遭遇の可能性を考慮に入れれば、すぐ引き返したり、
長く村に留まることはないでしょうから。
ベブリス :ならさ、この2つの村がやられた順序も確認してるわけね。
ロベール :最初のは詳しく調べましたし、2つ目のは死臭でわかります。
ベブリス :あ、そう。そういう話はいいわ。
G M:そのとき、部屋のドアがノックされます。
執事 :旦那様、ファリスの女性神官がお見えです。
ベブリス :ファリス!? どういう用件?
執事 :こちらでロベール様とお待ち合わせとのことです。
G M:ロベールは、懐から通話の護符を取り出しました。
そして、頭をかきながら弁明します。
ロベール :はい。私が呼びました。
叔父との連絡用に使うつもりでしたが、存外近くにいたようでしたので。
ベブリス :キミのアレなわけ?
ロベール :いえ。手持ちの中では最強の駒です。
ベブリス :そう? ファリスの女がねえ?
……ということは、彼のとこに連れてくわけよね。
ロベール :はい。もちろんです。
ベブリス :そちらの家も、つっこまれると色々まずいんでないの?
ロベール :実は、彼女が神殿に入る際、父が『いろいろと』援助していまして。
彼女が司祭になって今でも、これの片割れを持つ程度には
恩に着てくれているわけですよ。
ベブリス :なるほどねえ。
君の叔父様に挨拶状描くから、客間で話でもしてて頂戴。
ロベール :はい。あと……。
ベブリス :まだ何かあるのかね?
ロベール :馬を二頭にしていただきたいなと。
G M:老人は、諦めたような顔をして、
わざと聞こえるように大きなため息をつきました。
第16話冒頭・第1節 へ
第16話ステータス へ
トップページへ