うたがわれるもの
結局、出発が遅れたお詫びとして竜の牙やウロコを取って
隊商のメンバーに配るなどしつつ、1日遅れで一行は村を出ます。
なお、護衛に娘が助けられたということで、宿の主人から代金を永久割引扱いにしてもらい、
ルーシュンはご機嫌でした。結局、ロマールを出てから数えて15日目にザインに到着。
ザインからエレミアに向かう途中の街で、事件は起こります。
レイディア:どんな事件だろうと、華麗に解決してみせるわ。
G M:街への到着は夕刻です。森と湖に隣接している小さな街なんですが、
沈みゆく夕日が湖面に反射して、全景はなかなか壮観ですね。
湖畔には花が咲き、白鳥が飛び交う優美な景色。
ここは、レイク・エスリールという、歴史ある街だそうです。
街の入り口には門があります。夜には門が閉ざされるタイプの街ですね。
もちろん、入場者は門番に一通りのチェックを受けることになります。
この隊商は真正な商業許可証があるので、通常ならばすんなり通れます。
トゥエリ :通常ならば?
G M:街の入り口で、馬車の動きが止まりました。
街に入る者の審査を、簡略化せず丁寧に行っているようですね。
至る所にファリスの紋章を刻印したプレートメイルを着込んだ女性が、
検問に参加しています。たまに「汝は邪悪なり!」という叫び声が聞こえて、
邪悪と判定された人が街の衛視に半ば強制的に任意同行されていったり
しています。皆さんの馬車の順番になるには、まだ余裕がありますが。
レイディア:カトレア、隠れて。
カトレア :でも、下手に隠れると余計怪しまれますからねー。参ったなー。
トゥエリ :他人事みたいに言わないでくださいヨ。
ディース :かわいい? かわいい?
G M:意志の強さを感じさせるやや太めの眉が印象的な女性です。
背中の中ほどまで伸びた黒髪を、後ろで1つにまとめてますね。
顔は上の下程度。レイディアと同格といったところでしょうか。
仮に穏やかな表情なら、もうちょっと評価が上がるかもしれません。
ディース :うん。まあまあいけてるな。声かけとこっと。
レイディア:そんなことやってる場合じゃないでしょうがっ!
トゥエリ :センス・イービルには抵抗できませんからネ。何か対策を……。
フアナ :……この場で黙らせることも、できない……。
トゥエリ :当たり前デスよ!
レイディア:何かいい方法。何かいい方法。何かいい方法……。
フアナ :……ここは、精神力切れを……狙う……。
フィーエル:なるほど。
レイディア:でも、残り精神力がわからないんだけど。
カトレア :この剣で切ったらわかるんですけどねー。
レイディア:切るなっ! あんた、今までどうやって乗り切ったわけ?
カトレア :あの魔法には、邪念の内容まではわからないという弱点がありましてね。
おまけに、嘘をついていても、邪念の有無にしか影響しません。
トゥエリ :つまり、どういうことデスか?
カトレア :別の邪念を抱いていると見せかけるわけデスよ。
フアナ :……具体的には?
カトレア :ごく軽微な犯罪者を装ったり、連れがいれば抱きついたりとか。
マリア :なるほど。筋は通っておるのう。
フアナ :……レイディアとディース……服、脱いで……。
レイディア:で、できるかぁっっっ!!!?
ディース :なんで俺とレイディアなんだよっ!?
フアナ :……アベックっぽいし……。
レイディア:と、とにかく、邪悪な奴だけでも隠れるのよ。
フィーエル:あうー。暗黒神官かばったら、全員邪悪。
フアナ :……多分……正解……。
G M:さて、そのプレートメイルの女性が皆さんの馬車に
いよいよ近付いてきたわけですが。
カトレア :んー。困りましたねー。
G M:荷物の改めも兼ねて、皆さんのいる馬車の幌を覗き込みます。
よくよく見ればかなり手の込んだ鎧で、
ただの神官戦士ではないことがわかります。
神官風情が付けてると上司に怒られるんじゃないかな、
といった程の凝ったつくりです。鎧は手入れされてるものの、
使い込んだ跡があります。どうやら、単なるお嬢様神官ではなさそうですね。
女司祭 :至高神ファリスに仕える司祭です。これより、審査を行います。
カトレア :ファリスの司祭様ですか。僕は流れのフェネス神官で、カトレアといいます。
女司祭 :冒険者ですか。仮にも至高神ファリスの弟神を信ずる者であれば、
もう少しまっとうな職業に就き、ファリスの秩序をもって民を導き、
もって世の秩序と安寧を……。
G M:以下、しばらく説教が続きます。馬車の渋滞の原因はこれでしょう。
マリア :説教は神殿でやれ。耳が腐るわ。
レイディア:ちょっと、マリア!
女司祭 :ずいぶん挑発的な子供ですね。
そもそも、商人の娘が鎧を着て冒険者の真似事などと、
いかにしつけが行き届いてないことか。全くもって情けない限りです。
ファリスの教えをもってすれば、このような子供でも……。
マリア :我は子供ではないし、商人の娘でもない。
黙っておればファリスファリスファリスと、
ぬしは少しおかしいのではないか?
レイディア:すみませんっ! この子には後でよく言って聞かせますのでっ!
女司祭 :あなた方の中に邪悪な輩がいるから、
子供がこのような口をきくのではありませんか?
レイディア:めっそうもないです。私たちは非常にまっとうなパーティーでして。
G M:女司祭はセンス・イービルを唱えます。目標は(ころころ)カトレアです。
女司祭 :汝は邪悪なりっ!
G M:その叫び声を聞いて、数人の衛視が駆け寄ってきます。
彼女に指差されているのは、明らかにカトレアその人ですね。
カトレア :ははは。参ったなー。
女司祭 :ファリスの光は全てを照らします。観念して白状なさい。
カトレア :実は、先程から馬車が揺れるたびにそこの女の子の太ももが
ちらちらと目に入って、神官の身でありながら、
邪な感情を抱いてしまいました。懺悔します。よろしければ、
偉大なるファリスの神殿で罪を悔い、罰を頂きたいと存じます。
女司祭 :……そのような事情ならば仕方がありません。自戒の心があれば、
寛大なファリスは、あなたの罪をお赦しになることでしょう。
カトレア :どうか、懺悔のためにファリス神殿の位置をお教え下さい。
女司祭 :フェネス神の神官殿であれば、その必要はありません。
ゆめゆめ、己の欲望のため秩序をないがしろにすることなきよう、
ファリスの御名において訓示を与えます。
カトレア :ありがとうございます。
女司祭 :そこの女性も、冒険者とはいえ、そのような扇情的な格好をしないように。
レイディア:はい。すみません。
G M:女司祭は、衛視に向かって宣言します。
女司祭 :今日は疲れました。神殿で休みます。
衛視 :お疲れ様でした。神殿までお送り致します。
女司祭 :不要です。では。
G M:女司祭は去っていきます。馬車は無事に街に入れるようになりました。
衛視も去っていきます。
カトレア :ちょろいもんですねー。
レイディア:慣れてるわね。
フアナ :……逆をつく……心理的な罠……。
フィーエル:あうー?
トゥエリ :罪を自分から告白した上で、ファリス神殿に行きたがるとは、考えましたネ。
レイディア:やましいことがある人間は普通、やらないわね。
カトレア :センス・イービルを知り尽くしているからこそできる技です。
ディース :でも、本当に連れて行かれたらどうするつもりだったんだ?
カトレア :まずないでしょう。彼女、冷遇されてますからね。
レイディア:なんで司祭が冷遇されるのよ?
カトレア :まず、彼女が司祭位であるという前提に立ちますよね。
トゥエリ :ふむふむ。
カトレア :あの鎧の華美さは、布教用も兼ねてますね。ファリスの威光を示すための。
レイディア:だったら何よ?
カトレア :布教なのに鎧ということは、ホームタウンはここではありません。
レイディア:たしかに、ずっと同じ街にいるのに、あの重い鎧はないわ。
カトレア :旅の司祭か、そうでなくとも他の場所から赴任してきたばかりです。
フアナ :……あ。司祭なのに……横に神官や平信者がいなかった……。
カトレア :そうです。この街の規模で司祭位となると、間違いなく最高位ですよね。
レイディア:そうか。最高位なのに、お目付け役すらついてない。
ディース :明らかにファリスの仕事やってるから、監察の類でもねーよな。
カトレア :つまり、この街のファリス神殿は、
彼女の所に人員を割くのを嫌がっているか、彼女がそれを断ったか。
レイディア:いずれにせよ、背後関係はなし、と。
カトレア :ですね。司祭位なので神殿に帰れば無視するわけにもいきませんが、
位が高すぎて、ここの神殿では扱いに困るでしょう。
レイディア:なるほど。今後の対策がうちやすくなるわね。
ディース :でも、衛視が従ってたってことは、何かバックについてるってことじゃね?
フアナ :……あれは……ただの共生……。
フィーエル:無理やり?
レイディア:それは強制。
カトレア :邪念を抱く人間を判別できるファリスは、色々と役に立ちますからねー。
レイディア:ファリスが自分の手柄として持っていかない限りは、ね。
カトレア :そうです。幸い彼女はここの神殿と良好な関係を築けていないようですし。
ディース :寂しがってる女の子か……男として放っておけねーな。
レイディア:(くっ……もっとポイント稼がないと!)
マリア :ファリスはやめておけ。下衆の集まりにすぎぬ。
レイディア:気持ちはわかるけど、それ以上言わないでね。
トゥエリ :ファリスとマーファは、教義そのものがマリアの敵デスからね。
G M:さて、この街では街を横切る大通りの占有許可を得て、
隊商の馬車をそこに置くという停泊方法ですね。ただ、
街の中心の広場で明日何かがあるらしく、そこを避けての停車となります。
レイディア:何? お祭でもあるの?
G M:馬車は街の中央広場付近に停めるわけですが、
町の中央で何かの会場の設営が始まります。
ステージを作っているように見えますが。
マリア :祭か!? 祭か!?
フィーエル:その辺の女の子に、聞いてみる。
G M:フィーエルが尋ねると、キャーキャー騒ぎながら教えてくれます。
ちょうど明日は花祭りの日だそうです。
ここで、早い話が美少女コンテストのようなものがあるようで。
レイディア:(もし、たくさんの人が私のかわいさを認めてくれたら……。)
フアナ :……。
レイディア:行くわよ! 受付どこ!?
トゥエリ :出発は明日デスよ。
G M:美少女コンテストはこの街の祭の一環でして、
隊商は祭で稼ぐことも織り込み済みです。
次の街まで近いので、隊商の出発はどのみち昼過ぎになります。
レイディア:これは参加しろってことよね!!
ディース :コンテストか……かわいい子よりどりみどりだな。
レイディア:ふん。誰が一番かわいいか教えてあげるわ。受付探すわよ!
トゥエリ :仕方ないデスね。
フィーエル:聞き込みなら、任せて。
フアナ :後をつける。
G M:受付の場所は、ステージ設営中の人に教えてもらえます。行きますか?
レイディア:行くに決まってんでしょ!
フアナ :……わたしは……黙って、ばっくれる……。
G M:では、フアナ以外は、祭の特設窓口で話を聞くことができます。
とはいっても、広場の横に机と椅子が置かれ、
係の人が1人いるだけなんですが。
レイディア:ふん。規模が小さければ、それだけ私の優勝確率も上がるわ。
トゥエリ :相変わらず、考えることがこすいデスね。
レイディア:(営業スマイルで)こんにちはーっ。お疲れ様でーすっ!
受付 :……?
レイディア:街の人じゃなくても参加できますかーっ?
受付 :できるけど、予選は3日前に終わったよ。
レイディア:私、予選くらいなら通れるっすよね?
G M:例えばオランとか、大国の王都クラスの大都市で開かれるならともかく、
それ以外なら顔だけで予選は通りますね。
レイディア:残念ね。残念極まりないわ。
受付 :は?
レイディア:予選が開かれる頃にこの街にいたなら、私は予選を突破してたはずよ。
受付 :そうでしょうけど……。
レイディア:予選会に参加していないことの一点のみにおいて、本選に出場すべき
人材の出場を拒むことが、果たして真に妥当であるのかっ!?
受付 :でも、予選には参加してもらわないと……。
ディース :ま、そりゃそうだわな。くししし。
レイディア:私は他の参加者にできないことができるわ。
トゥエリ :(魔法を見せるわけにはいけませんし……まさか、またホラを。)
受付 :そんなこと言われてもねえ……。
G M:そうこうしているうちに、受付に抜群のプロポーションの
美女がやってきます。この顔は間違いようがありません。
学院寮にいた、アリエルですね。
レイディア:は、はあっ!!?
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