不良らには








G   M:十数年前、アデットの街で。

暴漢A  :へへっ、姉ちゃん。こっち来て俺たちと遊ぼうぜぇ。

町娘   :嫌です! やめてくださいっ!

暴漢B  :げへへへ。そんなつれねーこと言うなよ。おら、来いっ!

町娘   :嫌っ! 離してっ!

アーレン :おい、そこのゲスども。

暴漢A  :……ああん?

暴漢B  :俺たちのことかぁ!?

アーレン :自覚できるだけの頭はあるみたいだな。

取り巻きA:そうっすねぇ。

取り巻きB:話が早くて助かりますよ。

暴漢A  :……てめぇっ!

暴漢B  :やめろ! こいつ、例の魔法使いだ。

暴漢A  :……ちっ。今日のところは譲ってやらぁ。

暴漢B  :すいやせんっした!

G   M:暴漢たちは、慌てて去っていこうとします。

アーレン :待て。誰が帰っていいって言った?

暴漢B  :……え?

アーレン :置いてけよ、財布。どうせろくな金じゃないだろ?

暴漢A  :……ふ、ふざけんじゃ……。

暴漢B  :こ、これで許してください。

暴漢A  :お、おいっ!

取り巻きA:お前もだ。出せ。

暴漢A  :ちっ。ほらよ。

取り巻きB:お金は元の持ち主のところに届けておきますから。

G   M:暴漢たちは、慌てて去っていきます。

取り巻きB:……情けない人たちですね。

アーレン :言うな。そいつらのお陰で酒がうまくなるんだから。

取り巻きA:そうっすよねぇ。

町娘   :……あの、ありがとうございました。

アーレン :気をつけろよ。この辺りの衛視、さぼってるからな。

取り巻きA:ろくなもんじゃないっすねぇ。

取り巻きB:……最近、西区から流れ込んでくるチンピラが増えましたよね。

アーレン :俺らがいる限り、東は安泰だろ。

取り巻きA:違いねぇっす。

取り巻きB:我々魔術師も怖がられたものですね。

アーレン :そりゃあ、何もないところから電撃や爆発が出るかもしれないからな。

取り巻きA:怖いっすよねぇ。

取り巻きB:アーレン師がいらっしゃれば、官憲など必要ありませんよね。

アーレン :止せよ。まだ導師じゃないんだから。

町娘   :……あの、よかったら、お礼に、うちの酒場に……銀の首飾り亭って店です。

アーレン :……おお、あそこのガキか! 大きくなったなぁ!

町娘   :!?

取り巻きA:お知り合いなんすか?

アーレン :お前、マルクんとこの子だろ? そういえば、しばらく行ってなかったな。






G   M:町娘に案内され、一行は、酒場へと向かいます。

ナナ   :……ていうふうに、この人たちが助けてくれたの。

マルク  :……確か、ウォルフォード様でしたね。ありがとうございます。

アーレン :いいよ。だけど、よく覚えてたな。

取り巻きA:有名人っすからねぇ。

アーレン :いや、何年も来てなかったが、顔まで覚えてるとは……。

マルク  :豪快な方でしたからね。

アーレン :あの頃のナナは、ここが嫌いだったんだよな。

ナナ   :もう。そのことは言わないで下さいよ。

マルク  :人手が足りないとはいえ、子供にさせる仕事ではなかったですね。

ナナ   :そのことはもういいの。アーレン様も、忘れてください。

アーレン :オレは覚えてるのに、お前にも覚えておいてほしかったな。

ナナ   :もう、やめてくださいったら。

アーレン :昔はもっとトゲがあったけれど、ここの雰囲気は悪くなかったぞ。

取り巻きB:どうして、来なくなったのですか?

マルク  :私も気になっていましたが。

アーレン :ああ、お前のところは酒が薄い! 薄すぎるんだよ!

マルク  :それは失礼しました。しかし、うちはいつも……。

アーレン :オレのツラ見たら黙って濃い目にしろ。他の店はみんなそうしてる。

マルク  :それはできません。人によって濃さを変えるなど、酒場の恥です。

取り巻きA:てめぇ、この方を誰だと……。

アーレン :やめろ。……ここはずっとこうなんだよな。融通なんて利きやしない。

取り巻きB:今時珍しい店ですよね。

アーレン :お陰で、いい具合に寂れてるがな。

マルク  :それは失礼しました。

アーレン :今となっては、それも懐かしいか……。

マルク  :……こちらは、娘を助けていただいたお礼です。

G   M:マルクは、3人の前に酒の入ったコップを置きます。

ナナ   :ありがとうございました。

取り巻きA:おぅ。

取り巻きB:アーレン師のお力です。私たちは別に……。

アーレン :もらっておけ。オレはありがたく頂く……って、薄いっつってんだろ!!

マルク  :それは失礼しました。しかし、人によって濃さを……。

取り巻きA:てめぇ、なめてんのかっ!?

アーレン :いいよ。この街で思い通りにならないこと、一つくらいあったっていいだろ?






暴漢A  :あのクソ魔法使い、調子に乗りやがって……。

暴漢B  :やめとけ、

リーダー :お前ら、魔法使いの若造に舐められてるそうじゃねぇか?

暴漢B  :っ!?

暴漢A  :で、でも、あれはこいつが……。

暴漢B  :お、お前っ!

リーダー :頭使え、頭。魔法使いなんざ、魔法がなきゃただのザコだ。

暴漢B  :でも、そんなこと言われましても……。

リーダー :……魔法には、射撃と範囲の2種類があるらしいな。

暴漢A  :……射撃と、範囲?

リーダー :射撃は杖から一直線に飛んで、範囲は近くの全部に当たるってことだ。

暴漢B  :……と、というと……?

リーダー :盾があったら、どのみちそっちに当たるってこった。






G   M:数日後。

ナナ   :いらっしゃいませ。

マルク  :今日はお一人ですか?

アーレン :ああ、たまにはな。いつもの頼む。

マルク  :……どうぞ。

G   M:そのとき、1人の柄の悪そうな男が入ってきて、隅の席に座ります。

リーダー :おぅ、邪魔するぜぇ。

ナナ   :いらっしゃいませ。

アーレン :今日は静かに飲みたかったんだがな。

マルク  :そう言わないでくださいよ。

ナナ   :ご注文は……きゃあっ!!

G   M:男は、ナナを羽交い絞めにすると、喉元にナイフを突き立てました。

リーダー :動くんじゃねぇ!!

ナナ   :……ひっ……。

G   M:男の叫びを合図に、十数名の暴漢が、店になだれ込んできます。

リーダー :動くなよぉ? 動いたら、手元が狂うぞぉ?

G   M:入ってきた暴漢たちは、店の中に散らばります。

アーレン :ち……範囲魔法対策か。

マルク  :なっ、何が目当てですか!?

リーダー :うちの若いのが、そこの若造に世話になったらしくてよぉ。

暴漢A  :よぉ!

暴漢B  :魔法使えなきゃ、お前なんか怖くねぇよ!

アーレン :……あいつらの頭か。あの時は悪かった、離してやってくれよ。

リーダー :まず、その杖をよこせ。

アーレン :それは困る。

マルク  :ウォルフォード様、お願いします!

アーレン :……こんな商売やってるくらいだ。1対1なら、なんとかなるだろ?

マルク  :そうですけど、この状況では……。

リーダー :どのみち魔法は使えねぇんだ。使ったらこいつがどうなるか……。

ナナ   :……や、やめてください……。

アーレン :……ほらよ。高いから、大切に扱えよ。

暴漢A  :杖だっ!

暴漢B  :預かっとくぜ。

リーダー :おめぇら、やっちまえ!

G   M:男の声を合図に、暴漢たちが一斉にアーレンに襲い掛かります。

アーレン :受身だけとっておくか。

マルク  :ウォルフォード様!

リーダー :おっと、動くなよぉ?

ナナ   :アーレンさんっ!!

G   M:さすがに熟練の魔法使いだけあって、素人の攻撃ではダメージが通りません。
      当たってはいますし、出血もありますが、ほとんど効いていませんね。
      小一時間ほど一方的に暴行された末に、リーダーが口を開きます。

リーダー :おめぇら、今日のところは帰るぞ。土産もできたしなぁ。

マルク  :む、娘を返してください!

リーダー :聞こえんなぁ。この女は預かってくぜぇ。へへへ。

ナナ   :いやあああっ!!!

アーレン :待てよ。誰が連れて帰っていいって言った?

リーダー :……お、おめぇ……まだ立てるのか……!?

アーレン :オレをボコにして満足するんなら、この場は見逃してやったんだがな。

リーダー :構わねぇ、やっちまえ! オレはこの女連れて先に帰っとくからよぉ。

ナナ   :助けてぇぇ!!

アーレン :もうキレた。自分中心にファイア・ボール唱えるぜ。

暴漢A  :あ、あれって、呪文かっ!?

暴漢B  :ま、魔法がくるぞっ!!?

リーダー :ハッタリだ! 杖がなきゃ、魔法は使えねぇ。

G   M:次の瞬間、指輪を発動体に、アーレンのファイア・ボールが発動します。
      火球が爆発し、爆風が範囲内をめちゃめちゃにしました。
      爆発のダメージで、アーレンを取り囲んでいた暴漢たちは倒れました。
      暴漢が奪っていたアーレンの杖の表面も、黒く焼け焦げています。
      そして、爆発の中心にいたアーレン自身も、かなりのダメージを受けました。

リーダー :……な…………。

アーレン :……さあ…その子を離せよ。な?

リーダー :ひぃぃぃぃっ!!

G   M:暴漢たちのリーダーは、ナナを放して逃げていきました。

ナナ   :……助かっ……た?

マルク  :ウォルフォード様……すぐに手当てを!






G   M:そして、店から少し離れた路地裏。

リーダー :……あの野郎……ケンカに魔法使いやがって……。
      …………こうなったら、王都の賢者の学院にちくってやる……。






G   M:数日後、アーガム導師の私室で。

アーレン :……待てよ……それ、どういうことだ?

アーガム :手は尽くしたが、今回ばかりは庇いきれん。

アーレン :どういうことだって聞いてんだよ!!?

アーガム :王都の本部に通報があった。……こちらで重く処罰せねば、私が召喚される。

アーレン :……なんとかならないのかよっ!?

アーガム :領主にはいつも通り手を回したが、肝心の本部の反応が芳しくなくてな……。

アーレン :…………魔法が使えなかったら、オレ、何もできないだろ!!?

アーガム :向こうは私の処罰を……これ以上事が大きくなると、まずいのだ。

アーレン :……最後は自分の身かよ。

アーガム :……すまない。表向きは勘当ということになるが、支援は必ず。

アーレン :親父が全部なんとかしてくれるんじゃなかったのかよ!!?

アーガム :……すまない……全て私の責任だ……。

アーレン :…………潮時、か……。

アーガム :なにも、牢に入るわけではない。この街にいる限りは、安泰だ。

アーレン :……。

アーガム :暴漢のことなら心配は要らない。領主に掛け合って、新しい衛視を呼ぶ。

アーレン :……。

アーガム :今後のことは、私がなんとかしよう。当面の職は……。

アーレン :……いい。

アーガム :そうか。ならば、遊んで憂さを晴らすといい。金ならいくらでも……。

アーレン :……いいっつってんだろ!!!

アーガム :……すまない……お前の気持ちも考えないで……。






アーレン :……というわけだ。プーになったが、今後ともよろしくな。

マルク  :お金はどうするのですか?

アーレン :安心しろ。手持ちはあまりないが、後で親父が払う。

マルク  :しかし、ウォルフォード様が魔術師でなくなった以上、
      そのお金を、どうやって返すのですか?

アーレン :だから、親が払うって言っただろ? うちの親父、知ってるだろ?

マルク  :出世の見込みがなくなったのに、人のお金でお酒を飲む、と?

アーレン :だったらなんなんだよ!? 金は金だろ! いいから酒出せよ!!

マルク  :…………どうぞ。

アーレン :……わかればいいんだよ。

マルク  :その1杯は差し上げます。ですが、これで最後にしてください。

アーレン :……っ!!? どいつもこいつも手のひら返しやがって…………。
      ……もう来ねえよ!!!

G   M:アーレンは席を立ち、凄い勢いで店を出て行きました。

マルク  :…………またやってしまいましたかね。






G   M:そして、アーレンは街を歩くわけですが。

アーレン :……なんだよ?

G   M:すれ違う人々が、みんな自分を見ているような気がします。
      街角で話している人々は、自分の噂をしているように聞こえますね。
      それも、嘲笑されているような……。

アーレン :今、俺のこと笑った奴、誰だ!?

G   M:見回しても、こちらを向いて笑っている人は見えません。

アーレン :誰だよ!!? 出て来いよ!!?

G   M:大声に驚いて、周囲の人々が一斉にこちらを向きます。
      その後、関わりあいになるまいとするかのように、視線をそらしますね。

アーレン :文句があるんならはっきり言えよ!? どこにいるんだよ!?

G   M:名乗り出る人はいません。

アーレン :なんだよ……みんなよってたかって!!
      人が失脚するのがそんなに楽しいのかよっ!!!?






G   M:その後も、街中どこにいても、同じような感じです。
      アーレンは、すっかり憔悴してしまいました。

アーレン :……もう、この街を出るしかない……。
      親父にロケーションされないように、金目の物は全部置いて……。
      ……金は……なんとかなるだろ……。






その後、アーレンは、王都ファンのラーダ神殿の前で行き倒れているところを保護され、
紆余曲折を経て信仰に目覚めたのでした。
神官オルフとしてレイディアたちと出会うのは、また別のお話。





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