ある日のすざく幼稚園





G   M:ここは、総社市中央地区、港の近くにある古城。
      堀に囲まれたこの城は、満月の月明かりに照らされ、静かに佇んでいます。
      元々は戦国時代に立てられた大名の居城で、本来の役目を失った後も、
      お花見会場や観光スポットとして親しまれていました。
      しかし、一般市民が揃って疎開してしまった現在、お城の最上階は、
      元の拠点を放棄したすざく幼稚園の園児たちのたまり場となっています。
      すざく幼稚園の園児は、わずか4名。
      一般園児は存在せず、全てが名のある園児です。
      天守閣の最上階は、観光客を迎えるために多少の改装・補修はされているものの、
      建築当時の面影を残す殺風景な木造の室内です。
      まあ、当時の部屋の用途自体が要塞の物見だったので、地味なのも当然ですが。
      で、その中央に置かれた四角い机を囲んで、3人の園児の姿があります。
      1人は男の子、2人は女の子。男の子が一番奥の席に座り、その両隣に女の子。
      そして今、階段を上ってもう1人の女の子が部屋に入ってきます。

サラ   :オー、お待たせしました。今帰ったネ。

G   M:口を開いたのは、魔女の着そうな黒っぽいだぶだぶの服を身につけ、
      柄の先端に小型のスポーツバッグをつけたほうきを持った、金髪碧眼の活発そうな女の子です。
      女の子は、小脇に抱えていた箱を差し出します。
      くじ引き用の箱のようで、上部に手を突っ込むための丸い穴が空いていて、
      中にいくつものカラーボールが入っていますね。

しおん  :(魔女が帰ってきちゃった……。)

かえで  :おお、たいぎであった。わらわがほめてつかわす。

G   M:それに答えたのは、地面につきそうなほどの長い黒髪の少女。
      どこでそんなものを手に入れたのか、身の丈に合った十二単(じゅうにひとえ)を
      身にまとっています。夜とはいえ、真夏だというのに。
      少女の席の後ろには、どこかから取り外してきたのか、
      お城のライトアップに使うサーチライトが置かれています。

ひな   :『おそい』

G   M:もう1人の女の子は、持っていた分厚いスケッチブックに、
      茶色のクレヨンで『おそい』という字を書いて、ボールを持ってきた女の子に向けます。
      薄い青系の髪に、メガネ。昔のアニメに無口系キャラとして出てきそうな少女ですが、
      口数が少ないのを通り越して、全くしゃべっていません。
      彼女の背後には、剣や鉄砲、楽器などを持った、約20体ほどのおもちゃの兵隊が控えています。
      兵隊は全てイギリスの衛兵風の赤い洋服に黒くて高い毛皮の帽子で、
      和風の室内とは異色の組み合わせとなっています。

サラ   :オー、イッツ、トラフィックジャムネ。ニホンのジュータイ、おそろしいデース。

かえで  :むぅ。ひこうきでも飛んでおったのか?

サラ   :オーノー。イッツ、トップシークレット。まだナイショネ。

ひな   :『だめ』

G   M:今度は、スケッチブックをぱらぱらとめくって、オレンジ色の『だめ』の文字が示されます。
      どうやら、よく使う言葉は使いまわしされているようです。

かえで  :わらわのしったいじゃ。広い心でゆるすがよいぞ。

G   M:謝ってやるからありがたく思えと言わんばかりの態度で、
      十二単の女の子がふんぞり返ります。
      全員がしゃべらなくなったのを見て、おそるおそるといった感じで、男の子が口を開きました。

しおん  :あの……君たち、誰? ここはどこ? なんでこんなところに僕を連れてきたの?

サラ   :オー、ワタシたちのこと忘れるなんて、シオンとってもハクジョーネ。

ひな   :『だめ』

G   M:明るく振舞いつつもちょっぴり寂しそうに『お手上げです』といわんばかりのジェスチャーをした
      金髪の女の子に向けて、先程のスケッチブックが示されます。

しおん  :……しおん? それが僕の名前なの?

かえで  :あんずるでない。そなたのよめであるわらわが、いろいろとめんどうをみてやろうぞ。

ひな   :『だめ』

サラ   :オー、抜けがけよくないデース。日本の和を大事にするネ。

かえで  :まずは、シオンのだいすきなカレーを作ってやろうぞ。

サラ   :さては、またワタシに材料とって来させる気デスね? バット、そうはいきませんヨ!

ひな   :『くじ』

G   M:今度の言葉も、よく使う言葉なのか、スケッチブックをめくって示されました。

サラ   :ここは日本らしく、くじ引きでリーダーを決めるネ。とっても平和的な解決デース!

かえで  :しかたないのぅ。ほれ、シオン、くじを引くのじゃ。

しおん  :……ぼ、僕が?

かえで  :うむ。

サラ   :その通りデース。シオンはキュートなだけじゃなくて、ベリースマートネ。

ひな   :『そう』

G   M:戸惑う男の子の席の前に、上部にぽっかりと穴が空いたカラーボール入りの箱が置かれます。
      男の子は、戸惑いながらも、穴の中へと手を入れました。
      彼の赤い園児服には、白いワッペンが縫い付けられています。。
      ワッペンには、正方形に右上から左下に斜め線が入った「マス」を示す記号を意匠化したようなロゴが。
      そして、その中央には『03』という数字が入っていたのでした。


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